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298. 国際生物多様性の日 -私たち自身が解決の鍵-

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5月22日は国際生物多様性の日で、生物の多様性が失われつつあること、また、それに纏わる諸問題に対する人々の認知を広めるために国連が制定した記念日です。2021年のテーマは『私たち自身が解決の鍵 “We’re part of the solution #ForNature”』。これまでに取り上げた生物多様性に関するPick Up記事をまとめ、生物多様性について皆さんと考えてみたいと思います。


生物多様性条約とは?

生物多様性条約は1992年にブラジルのリオ・デ・ジャネイロで開催された「環境と開発に関する国際連合会議(地球サミット)」で採択されました。さらにその10年後の2002年、第6回締約国会議(COP6)において戦略計画「締約国は現在の生物多様性の損失速度を2010年までに顕著に減少させる」が定められましたが、計画の中で設定した目標のすべてを達成できませんでした。これを受けて、2010年に開催された第10回締約国会議(COP10)において新たに戦略計画が採択され、2050年までに「自然と共生する世界」を実現することを目指し、2020年までに「生物多様性の損失を止めるための効果的かつ緊急な行動を実施する」こととしました。この中の個別目標として、20項目の愛知目標が定められています(1)。

達成状況は?

2020年9月に公表された地球規模生物多様性概況第5版によると、20項目の愛知目標のうち、6項目は一部達成と評価したものの完全に達成したものはありませんでした。20の目標をさらに細分化した60の要素を用いた評価では、7項目(11.7%)が達成、38項目(63.3%)が進展あり、15項目(25.0%)が進展なし・後退、もしくは不明という結果でした。愛知目標に応じて各国が国別目標の範囲や目標のレベルを設定していますが、愛知目標の達成に必要とされる内容とズレがあったと指摘しています(2)。2020年は生物多様性戦略10年計画のみならず、2011-2020年国連生物多様性の10年の最終年でもあり、また、持続可能な開発目標(SDGs)の達成まで残り10年という重要な年でもあります。生物多様性の減少については、WWF(世界自然保護基金)が発表した『生きている地球レポート2020:生物多様性の減少から回復へ』においても警笛を鳴らしています。世界の生物多様性の豊かさを測る指標によると、1970年から2016年の間に脊椎動物の個体群が68%減少しました。地域別に見ると、ラテンアメリカ及びカリブ海地域の94%減少が観測地域で最悪な結果を示し、その他の地域においてもアフリカ65%、アジア太平洋45%、北アメリカ33%、ヨーロッパ・中央アジア24%の減少を示しています(3)。生物多様性の損失は、無秩序な鉱山・インフラ開発や非持続的な農業と森林破壊といった人間活動が主要な原因であり(4)、この傾向が続く限り、食料・保健システム崩壊をはじめとした人間社会の破綻をもたらしかねません。

今後の動き

生物多様性の損失に対処するためには緊急の行動を必要とし、生物多様性の減少から回復させるために、環境保全強化、持続可能な生産および消費対策を組み合わせた統合的に取り組む必要性を訴えています。言い換えると、自然を持続的に管理・保全する方法や、食料を生産・消費する方法に真の変革が求められています。2021年1月11日、生物多様性の保護のための国際的な行動を加速させるために、生物多様性のためのワンプラネット・サミット (One Planet Summit for Biodiversity)が開催され、『自然および海洋生態系の保護』、『アグロエコロジーの推進』、『生物多様性のための資金獲得』、『森林、生物、人間の健康の保護』の4つのテーマに焦点を当てた議論が行われ、9つのイニシアチブについて報告されています(5)。世界経済フォーラム(WEF)の2021年グローバル・リスク報告書においても、生物多様性の喪失は4位にランクされており、地球規模問題の動向を占ううえでも注目されています(1位:感染症(コロナ・パンデミックを反映)、2位:気候変動対応策の失敗、3位:大量破壊兵器、5位:自然資源危機)(6)。

2021年、国連持続可能な開発のための海洋科学の10年が開始し、エコシステム復興のための10年も6月5日に開始が発表される予定です。生物多様性条約においても、次の10年に向けた「ポスト愛知目標」について、今年の10月に中国の昆明で開催予定の第15回締約国会議(COP15)にて採択される予定です(新型コロナウイルスの影響で、昨年10月から延期)。2050年ビジョン「自然との共生」の達成にむけて、生物多様性の保全・再生に関する取組の拡大、気候変動対策、生物多様性損失の要因への対応、生産・消費様式の変革及び持続可能な財とサービスの取引といった様々な分野での行動を、連携させていくことが必要になってきます。

参考文献
(1) Aichi Targets. https://www.cbd.int/aichi-targets/
(2) Global Biodiversity Outlook (GBO). https://www.cbd.int/gbo5
(3)「生きている地球2020」ファクトシート (日本語).
https://www.wwf.or.jp/activities/data/lpr20_01.pdf
(4) IPBES (2019) Summary for Policymakers – Global Assessment Report.
https://ipbes.net/news/Media-Release-Global-Assessment
(5)ワンプラネット・サミットホームページ(英・仏):https://www.oneplanetsummit.fr/en
(6) World Economic Forum. The Global Risks Report 2021.
https://www.weforum.org/reports/the-global-risks-report-2021

 

(文責:情報広報室・金森 紀仁)

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