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702. 可能性に満ちた昆虫たち ~農作物栽培に、食料に、飼料に~

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可能性に満ちた昆虫たち ~農作物栽培に、食料に、飼料に~

地球上で現在約190万種類の生物が確認されています。しかしこれは実際の10分の1に過ぎないと推測されており、最新の顕微鏡でも確認が難しい多くの微生物から、われわれが未到達の深海生物に至るまで、生物の世界は謎に包まれ、可能性に満ちています。発見された生物種のうち、昆虫(insect)は約100万種類存在するとされ、人類とエコシステムへの貢献は計り知れません。


今日のPick Upは、近年注目を集めている昆虫利用に関する情報をまとめてみました。

① 農作物栽培における昆虫利用

農作物栽培における昆虫の利用には、ミツバチなどの昆虫による農作物の受粉活動があげられます。トマトやイチゴを始めとする多くの野菜は商業用に製造された蜂群を導入することで受粉しています。昆虫受粉は生産者の労力削減、収量や食味の向上に繋がっています。

さらに近年注目を集めているのが、有益昆虫等を使った総合的病害虫防除技術(IPM)です。テントウムシやカメムシ、カブリダニをはじめとする捕食性の虫から栽培上発生する害虫に寄生する寄生蜂など有益昆虫等(天敵とも言う)が作物栽培の現場で活用されています。日本では主に施設園芸作物における天敵の導入が定着してきています。天敵による害虫防除は農薬残留や感受性抵抗の心配がなく、農薬を散布する際の作業者の曝露リスクがないことからみどりの食料システム戦略における2050年まで化学農薬半減の目標に要な役割を果たします。

② 食用としての昆虫利用

常に人類の食文化の一部として存在してきた食用昆虫。世界では現在まで約1900種類の昆虫が食用として消費されています。持続可能な世界の実現と人々の食料安全保障の面から栄養価値の高い食用昆虫(Edible insects)の普及開発が進んでいます。 以前のPick Up記事でも紹介しましたが、EUは2021年に食用昆虫を「novel food」フードとして承認し、今後の普及開発に力を入れています。タンパク質の豊富な昆虫は将来肉や大豆製品の代替品として期待されています。日本でも最近コオロギせんべいやコオロギチョコレートなど昆虫の粉末を混ぜたお菓子などが一般のスーパーなどで見かけるようになりました。もともと東南アジアやアフリカ諸国の特定の国や地域で食べられることの多かった昆虫食でしたが、将来的に、欧米諸国含め世界中で普及され、新しい食「Novel  food」から従来の食「Conventional food」へと定着していくかもしれません。

③ 動物飼料としての昆虫

世界の農地の70-80%を占める畜産業ですが、一方畜産向け飼料生産は耕作地の33%を利用しています。毎年11億トン以上の飼料が動物食として消費され、その44% が肉用の養鶏と産卵鶏に、28% が豚に、4% が魚やその他の海産物に、3% がペットに与えられています。 動物飼料に対する世界的需要も、その持続可能性に対する懸念も両方大きいです。例えば、現在飼料用として栽培される大豆生産は森林破壊、生物多様性の喪失、農薬による土壌汚染、水資源の不足など多くの課題に直面しています。ここで畜産飼料としての飼料用昆虫が注目を集めています。飼料用昆虫を餌に混ぜることで昆虫の持つタンパク質、栄養要素が畜産動物に摂取されることになります。また昆虫の増殖は農業とくらべ必要とされる水や土地は少なく、製造過程において畜産や作物栽培と比べ温室効果ガスの発生が少ないことが分かっています。

 

これら大きな可能性を秘める「昆虫」ですが、効果的で広く継続した活用に向けて、さらなる研究や政策支援が必要とされています。

 

(参考文献)
https://www.naturestoolkit.com/_files/ugd/69fcc6_a11a5b6be7014c66be69d7… 
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjaez/64/3/64_JR18022/_pdf 
https://www.fao.org/3/i3253e/i3253e.pdf 
https://www.science.org/doi/epdf/10.1126/science.adc9165
https://www.jircas.go.jp/ja/program/proc/blog/20210603

 

(情報プログラム トモルソロンゴ、飯山みゆき)


 

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