研究成果情報 - 日本
国際農林水産業研究センターにおける研究成果のうち、成果が特に顕著で、広く利用を図ることが望ましいと考えられる成果を要約してご紹介しています。
- 熱帯の低pH農地土壌の理化学性と生物性はフィルターケーキ施用により改善される(2024)
石垣島のサトウキビ畑に製糖副産物であるフィルターケーキ(FC)を施用すると、低pH土壌では物理性および化学性が向上する。また、FC施用により、低pH土壌では大型土壌動物であるミミズの現存量も増加するが、中pH土壌では減少する。低pH土壌でのFC施用は、理化学性の改善に加えて、有機物分解の促進や土壌構造の改変を担うミミズの現存量を増加させるため、物質循環や保水性などの土壌機能の向上も期待できる。
- 作物栽培条件下の窒素溶脱量抑制には炭化物の表層土壌への施用が有効(2024)
土壌への炭化物の施用深度の違いにより施肥由来の硝酸態窒素溶脱量は変化する。作物栽培条件下では表層施用により溶脱量が12.3%減少する一方、作土層施用では6.4%増加する。本試験の条件において表層施用では、無施用と比較して深さ0~30 cmの土壌における窒素吸着量増加と乾燥状態の軽減が見られる。炭化物を適切な深度に施用することで、環境負荷軽減が期待される。
- 地中パイプの配置・構造の変更によりビニルトンネル内の水蒸気を効率的に回収できる(2024)
地中に埋設したパイプおよびビニルフィルムの内外の温度差を利用し、塩水などの蒸発により生じた水蒸気を結露させて淡水を生産できる。この地中パイプをビニルハウスの直下から外へ移動し、さらに直径100 mmのパイプ1本から直径50 mmのパイプ4本に変更することによりパイプ壁温が低くなり、水蒸気の回収率が約3割増加する。
- アンデス高地で栽培化された高地型キヌア系統の高精度ゲノム配列情報(2024)
栽培起源地とされるティティカカ湖周辺に生育する北部高地型およびボリビアのウユニ塩湖周辺の過酷環境に適応した南部高地型のキヌア自殖系統の高精度ゲノム配列情報は、キヌアの栽培化の謎を解き明かすだけでなく、その優れた環境適応性や栄養特性を解明するための重要なゲノム解析基盤として活用できる。
- イネの穂数を増加させる遺伝子MP3は飼料用米品種「北陸193号」を増収させる(2024)
「コシヒカリ」由来の遺伝子MP3を国内最多収記録を有する飼料用米品種「北陸193号」に交配により導入した新系統「北陸193号-MP3」は、窒素施肥の有無にかかわらず、「北陸193号」と比較して穂数が21~28%増加し、6~8%増収する。新系統の利用により、肥料価格や飼料価格の高騰下における農家の安定生産へ貢献が期待される。
- 土–石膏混合クラストで種子の出芽能力を簡易に評価(2024)
石膏と土の混合資材を用いることで、土壌クラストを任意の硬度で均一に再現することができる。この手法をダイズ遺伝資源集団に用いることで、クラスト生成条件下において出芽能力が優れる系統・品種を簡便、迅速かつ低コストに選抜することができる。この手法はダイズ以外にも幅広く応用できるため、様々な作物遺伝資源においてクラスト条件下での出芽能力に優れる系統選抜が進むと期待される。
- ゴカイ生餌の給餌によるバナメイエビ成熟制御技術の開発(2024)
バナメイエビ養殖の持続性および収益性維持には、高品質な種苗の安定供給を可能とする技術が必要となる。人工配合餌料に加えゴカイの生餌を併せて給餌することにより、親エビの卵成熟誘導を促進し、産卵回数・産卵数を向上させ、成熟効果を長く維持できる。従来の眼柄切除法に代わる新たな卵成熟誘導技術としてこの給餌法を採用することで、エビ養殖において最も手間と時間を要していた種苗生産の効率化が期待できる。
- エリアンサスの高い水利用効率と関連する葉身代謝物の蓄積(2024)
サトウキビの近縁属遺伝資源エリアンサスは、耐乾性指標である葉身の水利用効率(光合成速度÷気孔コンダクタンス)が、土壌の乾燥湿潤にかかわらずサトウキビに比べ高い。また、エリアンサスはサトウキビに比べ葉の裏面の気孔密度が低く、葉にベタインやγ-アミノ酪酸(GABA)といった気孔閉鎖およびストレス応答に機能する物質を豊富に蓄積する。これらの特性は、属間雑種集団などを用いた耐乾性系統選抜のためのバイオマーカーとしての利用が期待される。
- 酸素ナノバブル⽔による湛⽔⽔⽥⼟壌の⾼酸素化とメタン⽣成抑制(2019)
ナノバブルとは直径1 µm以下の微小気泡で、水中に長期間存在できる。純酸素を材料ガスとするナノバブルを高密度に含む水を作成し、湛水状態の土壌カラムに上部から通水すると、土壌表面付近の浅層中の酸素濃度が上昇するとともに、メタン生成が抑えられる。
- ソルガムの⽣物的硝化抑制にはアンモニア酸化古細菌の抑制が関連する(2019)
ソルガムが根から分泌する難水溶性の硝化抑制物質であるソルゴレオンは、生育とともに下層土に向かって新生される根から分泌され、分泌量には系統間差がある。ソルゴレオンの分泌量が多い系統の根圏土壌では、硝化活性とアンモニア酸化古細菌数がともに低下することから、ソルガムの生物的硝化抑制にはアンモニア酸化古細菌数の抑制が関連している。
- RNA⼲渉法によるバナメイエビ卵⻩形成抑制ホルモン遺伝⼦の発現抑制(2019)
バナメイエビにおける卵黄形成抑制ホルモンの遺伝子構造を明らかにし、定量PCR法を構築することにより、体内の遺伝子発現量の変動を把握できる。また、遺伝子情報を基にRNA干渉法を用いることで卵黄形成抑制ホルモンの遺伝子発現を抑制できる。
- 国内保有マンゴー遺伝資源の多様性および品種特性(2019)
国際農研および沖縄県農業研究センターで保存されているマンゴー遺伝資源120点は、SSRマーカーによる系統および遺伝的多様性の解析により、重複を除いた83の異なる遺伝子型に区別され、育成地を反映する3つのグループに分かれる。世界各国に由来するこれらの遺伝情報および品種特性情報は、品種利用の促進や多様性比較の基盤として活用できる。
- わい性で、耐暑性に優れた食味良好なパパイヤ新品種「石垣珊瑚」(2006)
パパイヤの新品種「石垣珊瑚」は、「ワンダーブライト」の自然交雑実生から選抜した単為結果性のある雌性系統である。耐暑性を備え、わい性で豊産性の栽培特性を持ち、果実は強い芳香があり、高糖度で食味がよい。
- パッションフルーツ冬実中の酸含量を低下させる温度管理法(2006)
夜温15°C前後の無加温栽培におけるパッションフルーツ(品種:「サマークイーン」)の冬季収穫果実は酸含量が高い。昼温30°C、夜温25°C程度に管理する加温栽培を行うことにより、酸含量が低く糖酸比の高い果実が収穫できる。
- 熱帯性・亜熱帯性魚類の必須脂肪酸組成の特性(2003)
熱帯性・亜熱帯性海産魚の卵稚仔は、冷水性・温水性魚類と異なる必須脂肪酸組成特性を有し、アラキドン酸が重要であることが示唆された。
- 石垣島宮良川における懸濁物質および窒素とリンの推定流出量(2003)
石垣島宮良川から1年間に海洋に流出する懸濁物質、窒素、リンは、それぞれ、1882t、68t、7t と推定される。土壌浸食深は畑地当たり0.2mm、窒素とリンは施肥量と家畜排泄量合量のそれぞれ25%と6%である。
- 肥効調節型肥料の施用によりサトウキビの窒素施肥量を4割節減できる(2003)
サトウキビの春植え栽培において、慣行栽培の追肥窒素分を肥効調節型肥料で施用すると、窒素施肥量を4割節減しても可製糖量は減収しない。また、肥料の利用効率が高くなり、未利用分が慣行より著しく少なくなる。
- カンキツグリーニング病を媒介するミカンキジラミの分布はゲッキツの分布と一致する(2001)
カンキツグリーニング病を媒介するミカンキジラミは、ミカン科のゲッキツが分布する奄美大島以南の南西諸島において恒常的に発生しているので、カンキツグリーニング病が未発生のこれらの島々では、本病の侵入に対する警戒が必要である。
- 日本在来小麦と中国育成小麦の赤かび病抵抗性遺伝子の比較と集積(2000)
小麦赤かび病抵抗性品種の延岡坊主小麦(日本在来)と蘇麦3号(中国育成)との雑種F1に由来する半数体倍加系統を用い、関与する抵抗性遺伝子の数が推定され、両品種のもつ抵抗性遺伝子を集積した系統が作出できる。
- 亜熱帯地域の降雨エネルギーおよび雨滴粒径分布の特性(1999)
マイクロフォン型雨滴粒径測定装置による降雨エネルギー値算定法を用いると、石垣島(亜熱帯)とつくばの実測値はWischmeier式(降雨エネルギー式)を上限に三原式を下限に幅広い分布を示す。石垣島では弱い降雨強度でWischmeier式を超える過大領域が存在する。