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259. 海面上昇による洪水リスク
3月23日は世界気象デーであり、2021年は「持続可能な開発のための海洋科学の10年」の開始を記念して「海洋と私たちの気候・天気」をテーマとしています。
世界気象機関(WMO)によると、海洋は地球の表面の70%を占め、世界の気象と気候に大きな影響を及ぼしています。また、海洋は世界貿易流通経路の90%を占め、人類の40%が海岸から100㎞以内に居住することから、世界経済を支えています。しかし温暖化は、氷河溶解と水温上昇に伴う体積拡張による海面上昇をもたらすとされ、海岸地域の人々の生活を脅かしています。20 世紀の間、海面は15㎝(年平均1.5mm)ほど上昇しました。気候変動に関する政府間パネル(IPCC: Intergovernmental Panel on Climate Change)は、温室効果ガス排出を削減して温暖化が2℃以内に抑えられたとしても、21世紀中、2100年までに30-60㎝(年平均3-6mm)の海面上昇を予測しています。しかし温室効果ガス排出の抑制努力がなされなければ、海面上昇は60-100㎝(年平均6-10mm)に及びかねません。
海面上昇の影響は世界的に均一ではなく、必ずしも気候変動に直接結びつかない要因によって地域差が大きくなっています。2021年3月、Nature Climate Change誌で公表された論文は、海岸沿いに居住する人々は、世界の平均に比べ4倍速い速さで海面上昇を経験すると予測しています。海面上昇による沈下の影響については、これまでローカルな問題としてとらえられ、グローバルな分析は行われてきませんでした。論文は、過去20年間において、毎年2.6mmの世界平均の海面上昇に対し、海岸沿いの居住者は7.8-9.9mmの海面上昇を経験してきたとのことで、IPCCのこれまでの報告よりも大きくなっています。
とりわけデルタ地帯に位置する都市においては、地下水使用や原油・ガスの採掘、上流ダムによる土砂堆積の減少による地盤沈下が急激に進んでいます。世界の海岸地域の居住者の58%は地盤沈下を経験しているデルタ地帯に居住しているとのことです。その結果、海岸地域の居住者は、世界平均よりも3-4倍の速さで海面上昇に直面しています。とりわけ、世界の海岸地域人口の70%を占め、地盤沈下しつつあるデルタ上に巨大かつ拡張する都市部を抱える南、東南、東アジアで相対的な海面上昇の問題が深刻となっています。著者らによると、20世紀中、東京の一部では4m(年平均40㎜)、上海、バンコク、ニューオリンズ、ジャカルタは2-3m(年平均20-30mm)の地盤沈下を経験しました。東京、上海、バンコクでは近年地下水使用が減ったために地盤沈下はほとんど起こっていない、あるいは減速していますが、そのほかの都市では地盤沈下を減速させる大きな変化はないといいます。
海面上昇と強烈な台風やハリケーンなどの頻度と強度の増加によって、とりわけ満潮時に海面からの高度の低い海岸地域や島嶼部がリスクにさらされる可能性が高くなります。国際農研は、土木的な防災対策を講じることが東南アジアのデルタ地域などにおいて、極端現象による災害被害への適応策の開発と経済評価を行っています。
参考文献
A global analysis of subsidence, relative sea-level change and coastal flood exposure, Nature Climate Change (2021). DOI: 10.1038/s41558-021-00993-z , dx.doi.org/10.1038/s41558-021-00993-z
(文責:研究戦略室 飯山みゆき)