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621. パキスタン洪水における気候変動の役割

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621. パキスタン洪水における気候変動の役割

2022年6月中旬から8月末にかけ、パキスタンでは例年を大きく超えるモンスーン降雨により、国土の大部分が未曽有の大洪水に見舞われました。8月だけでも通常の3倍と1961年の観測史上最も降雨量の多い月となり、とくに南部のSindh とBalochistanの2県では例年の7-8倍の降雨が観測されました。国土を縦断するインダス川では、水が河岸を超えて数千キロヘクタールの土地を水没させ、3300万人が被災し、1700万の家屋と1500の人命が失われ、多くの農作物が被害を受けたと報道されています。

World Weather Attributionのチームは、人為的要因による気候変動がモンスーン降雨の強度を高めた可能性が極めて高いという分析結果を示しました。

洪水は、2022年夏の異常なモンスーン降雨に、とりわけSindh と Balochistan県を襲った 8月に起きた数回の短期的な豪雨、が重なり合った結果、生じました。被害は、また、脆弱なインフラによって悪化しました。

こうした事象は今日の気候の下で100年に1回起こりうる可能性がありますが、エルニーニョ・南方振動(ENSO cycle)等と相関する様々な要因の影響を受け、インダス川流域の降雨は年ごとの変動が大きく、確率を完全に数値化することは困難が伴うとのことです。

観測値における人為的な気候変動の役割を確定するには、気候モデルを用い、人為的な温室効果ガスの影響の有無によるトレンドを比較します。今回洪水の影響を受けた地域はモンスーン地域の西端であり、西の乾燥地域と東の湿潤地域の間で降雨の性質に大きな差異があります。多くの最新気候モデルは、こうした降雨の性質をうまくシミュレーションすることができず、辛うじて評価基準をクリアしたモデルは、異常な大雨の頻度と強度の変化を実際の観測トレンドよりも小さく予測する傾向にあるようです。この観測とモデル予測の乖離は、研究者の評価が補足できない長期的な変動・過程が重要な役割を果たしており、人為的に引き起こされた気候変動の要因を十分に数値化できない可能性を示唆しているとのことです。

それでも、5日間の極端な降雨に関しては、研究者らが分析したモデルや観測の多くが、パキスタンでの温暖化に伴い強い強度での降雨が増加していることを示しています。幾つかのモデルは、気候変動が5日間における降雨の強度を50%強めた可能性を示唆しています。

将来的には、2℃の温暖化のもとで、5日間の降雨強度の強まる可能性を示唆する一方、60日間のモンスーン降雨についての予測は不確実性が高い状況となっています。

研究者らは、この分析結果はIPCCの最新報告と一致しており、現状および将来において人為的な気候変動によりパキスタンで異常なピークを伴う降雨が増える可能性を予測しており、異常気象における脆弱性を早急に解決することを提言しています。


(文責:情報プログラム 飯山みゆき)

 

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