Pick Up

197. 培養肉の販売が世界で初めて承認される

関連プログラム
情報収集分析

先月、世界で初めて培養肉の販売が承認されました。培養肉とは、細胞を組織培養することによって人工的に作られた肉のことで、畜産に比べて環境負荷を低くおさえることができ、また厳密な衛生管理が可能で、動物を屠殺する必要もないという特徴があります。シンガポールの規制当局(食品庁)が、米国企業(イートジャスト社)がバイオリアクターで培養する鶏肉の販売を承認したことは、食品業界にとって画期的な出来事です。

研究によると、食肉消費量の削減は気候危機に取り組む上で不可欠であり、人間がとることができる最良の行動だとも言われています。培養肉を製造している会社は、肉食を減らしたいと思いつつもやめられない人々にとって、培養肉が最も効果的なのではと考えています。ビーガン食は魅力的に映らなかったり、植物ベースの肉の代替品は従来の肉と風味が違うとみなされたりするからです。さらに培養肉は、動物の排泄物による細菌汚染や抗生物質・ホルモン乱用の問題も回避します。

現在、毎日約1億3000万羽の鶏が食肉用に屠殺されています。 重量換算で、地球上の哺乳類の60%は家畜であり、36%は人間で、わずか4%が野生です。イートジャスト社によると、生産ラインでは、生きている動物の生検から採取できる細胞を用いるため、屠殺を必要としません。成長に必要な栄養素は植物由来のものを用います。増殖培地に関しては、規制当局の承認プロセスが開始された時点では植物ベースの代替品が利用できなかったため、ウシ胎児血清を含む培地を使用していますが、これも次の生産ラインからは植物由来の血清を利用する予定です。

今後、この培養肉を使った商品はシンガポールのレストランでチキンナゲットとして販売される予定です。当初の在庫は限られており、価格も従来の鶏肉に比べてかなり高価ですが、今後の生産拡大に伴い最終的には安くなると見込んでいます。また、小規模生産では炭素排出量が比較的多くなりますが、いったん生産拡大をすれば、環境負荷は従来の肉よりもはるかに少なくなるとのことです。

国際農研の情報収集分析プログラムでは、世界のフードシステムにおける最新動向についての情報についても発信していきます。

 

参考文献

The Guardian. No-kill, lab-grown meat to go on sale for first timehttps://www.theguardian.com/environment/2020/dec/02/no-kill-lab-grown-m…;

MIT Technology Review. Cultured meat has been approved for consumers for the first timehttps://www.technologyreview.com/2020/12/01/1012789/cultured-cultivated…;

(文責:研究戦略室 白鳥佐紀子)

関連するページ