研究成果

アジアの伝統野菜「ヒユナ」の遺伝的多様性を世界で初めて解明
―4つの亜集団に分類され、インドや中国などを起源に分布―

関連プログラム
食料

令和4年9月28
国際農
筑波大
世界蔬菜センタ
かずさDNA研究

アジアの伝統野菜「ヒユナ」の遺伝的多様性を世界で初めて解明
―4つの亜集団に分類され、インドや中国などを起源に分布―

ポイント

  • アジア地域の伝統的な葉物野菜「ヒユナ」1)465種の遺伝的多様性を世界で初めて解明
  • 品種育成に必要な一塩基多型2) マーカー5,638個を同定、105系統のコアコレクション3) を作成
  • 栄養価、食味、収量が向上する新しいヒユナの品種育成に期待

概要

 国際農研は、筑波大学、世界蔬菜センター、かずさDNA研究所と共同で、アジア地域の伝統的な野菜「ヒユナ」(Amaranthus tricolor L.)の遺伝的多様性を世界で初めて解明しました。
 ヒユナは、東南アジアのベトナム、インドネシアなどの開発途上地域で栽培されており、環境ストレスに強く、栄養価が高い作物です。しかし、先進国における需要の低さから育種研究が遅れていました。今回、研究グループは、育種基盤の構築を目的に、ヒユナ遺伝資源465種類の遺伝的多様性を解析し、5,638個の一塩基多型(SNP)マーカーを同定しました。また、インド、バングラデシュ、中国など多様な国・地域に由来する105系統からなるコアコレクションを作成しました。
 今回得られたSNPマーカーとコアコレクションを利用したマーカー選抜育種により、栄養価・食味・収量などの向上に向けた育種技術および新品種の開発への道が開かれました。また、熱帯・亜熱帯地域における持続可能な野菜生産にも寄与することが期待されます。

 本研究成果は、国際科学専門誌「Scientia Horticulturae」電子版(日本時間2022年9月9日)に掲載されました。

<関連情報>

予算
運営費交付金プロジェクト、科研費(19KK0151

発表論文

論文著者
K Hoshikawa, YP Lin, R Schafleitner, K Shirasawa, S Isobe, DC Nguyen, R Ohsawa, Y Yoshioka
論文タイトル
Genetic diversity analysis and core collection construction for Amaranthus tricolor germplasm based on genome-wide single-nucleotide polymorphisms
雑誌
Scientia Horticulturae
DOI: https://doi.org/10.1016/j.scienta.2022.111428

問い合わせ先など

国際農研(茨城県つくば市)理事長 小山 修

研究推進責任者:
国際農研 プログラムディレクター 中島 一雄
研究担当者:
国際農研 生物資源・利用領域 星川 健
筑波大学 生命環境系 吉岡 洋輔
かずさDNA研究所 植物ゲノム・遺伝学研究室 白澤 健太
広報担当者:
国際農研 情報広報室長 大森 圭祐
プレス用 e-mail:koho-jircas@ml.affrc.go.jp
かずさDNA研究所 広報・研究推進グループ 平岡 桐子
Tel:0438-52-3930
本資料は、農政クラブ、農林記者会、農業技術クラブ、筑波研究学園都市記者会、千葉県政記者会、千葉民間放送テレビ記者クラブ、木更津記者クラブに配付しています。

※国際農研(こくさいのうけん)は、国立研究開発法人 国際農林水産業研究センターのコミュニケーションネームです。
新聞、TV等の報道でも当センターの名称としては「国際農研」のご使用をお願い申し上げます。

開発の社会的背景

 世界では20億人以上が、「隠れた飢餓」と呼ばれる深刻な微量栄養素の不足に苦しんでいます。このような状況で、コメ、コムギ、トウモロコシ、ダイズなどに代表される作物種への過度な依存は、農業作物の遺伝的多様性の喪失をもたらし、世界の食料安全保障にとって潜在的な脅威になります。さらに、作物育種の脆弱性、偏った栄養バランスにつながる可能性も指摘されています。
 近年、生物資源とバイオテクノロジーを活用して、地球規模の課題解決と経済発展の共存を目指す「バイオエコノミー」の早期実現が提唱されており、その中で、孤児作物4)と呼ばれる十分に活用されていない作物や遺伝資源を効果的に利用することが注目されています。

研究の経緯

 孤児作物の一つである、ヒユ科アマランサス属アマランサス種(Amaranthus spp.)は、60~70種で構成され、南・東南アジア、南米、アフリカにおいて、葉物野菜、食用穀物、飼料作物、観賞用植物として栽培されています。これら地域で生活する人々にとって、アマランサス種は重要な食用作物であり、病害、高温、干ばつ、塩害などの環境ストレスに強く、タンパク質、ビタミン、ミネラル、食物繊維を大量に含んでいます。その栄養価の高さから、アマランサス種は代表的な植物性スーパーフードの一つとして世界保健機関(WHO)から認定されています。しかし、アマランサス種は、その多様性と優れた栄養価にもかかわらず、先進国における需要の低さから、育種研究は遅れていました。
 国際農研では、開発途上地域の健康増進や所得向上に貢献するための育種の基盤構築を目的に、筑波大学、世界蔬菜センター、かずさDNA研究所と共同で、アマランサス種の一つであり、アジア地域の伝統的な葉物野菜として利用されるヒユナ(Amaranthus tricolor L.) に注目し、多様性、栄養価、食味に関する研究を2019年から実施しています。国際農研(星川健 研究員)と筑波大学(吉岡洋輔 准教授)は研究総括を、世界蔬菜センター(Roland Schafleitner 分子育種チーム長)は遺伝資源の保存と栽培を、かずさDNA研究所(白澤健太 主任研究員)は次世代シーケンサー5)によるDNA解析を担当しています。

研究の内容・意義

  1. 世界蔬菜センター(台湾)と米国農務省のジーンバンクで保存されているヒユナ遺伝資源465種類(図1)について、ゲノム全体にわたるSNPに基づいて遺伝的多様性と集団構造を解析しました。その結果、合計10,509個のSNPを発見し、440種類において欠損のない5,638個のSNPマーカーを同定しました。
  2. SNPマーカーを用いた377種類の集団構造解析により、4つの亜集団(Q1~Q4)と中間型に分類されることを明らかにしました(図2)。Q1とQ2は、それぞれインドとバングラデシュを起源とする遺伝資源が多く、Q3は東アジア、特に中国を起源とする遺伝資源を多く含んでいました。今回得られたSNPマーカーは、ヒユナの経済的・農学的に重要な形質に関連するゲノム領域の探索に貢献するものです。
  3. ヒユナ遺伝資源の遺伝的多様性の結果を基に、SNPマーカー用いて、遺伝的多様性を代表する105種類のコアコレクションを作成しました。このコアコレクションは世界蔬菜センターで保存・配布しており、ヒユナの研究開発・育種のために利用されます。

今後の予定・期待

 世界中のヒユナ研究者が、本研究で作出されたSNPマーカーとコアコレクションを利用することにより、経済・農業的に重要な形質を持つ系統や遺伝子座の単離・同定、有用な形質を検出できるDNAマーカーの迅速な開発が可能となります。
 ヒユナなどの孤児作物は、現地の多様な栽培環境に適応しやすい食用作物です。今後、孤児作物の品種改良を行う場合、その遺伝的背景を変えること無く、栄養価・食味・収量性などの向上に向けた育種技術および新品種の開発が期待されます。

用語の解説

1) ヒユナ(学名Amaranthus tricolor L.)
南アジア原産で、葉色に黄や紅、あるいは紫などが混ざっている1年草です。日本では、観賞用のハゲイトウとして馴染まれていますが、ハゲイトウの変種ヒユナは古くから食用として栽培されています。
2) 一塩基多型
ある生物種集団のゲノム塩基配列中に、置換や挿入欠失などにより一塩基が変異した多様性が見られるものを一塩基多型と呼びます。個体差など複雑な形質の原因となる多型の検出に用いられます。SNP(スニップ)、SNPs(スニップス)とも呼ばれます。
3) コアコレクション
保存遺伝資源の中から選定した代表的な品種・系統のセットのことです。遺伝的多様性を維持しながら遺伝資源のサイズを全体の30%以下に縮小した集団です。
4) 孤児作物
特定の地域で生産・消費され、国際的に取引されていない果物、野菜、マメ科植物、穀物が含まれます。アマランサス、バオバブ、モリンガ、キヌア、シコクビエ等があります。孤児作物は十分に活用されていない食用植物であり、先進国における農業では、現在は注目されていません。
5) 次世代シーケンサー
遺伝子の塩基配列を高速に解読できる装置です。NGS(Next Generation Sequencer)と呼びます。

図1. 世界蔬菜センターで栽培されているヒユナ遺伝資源の一例

葉の色、形状、背丈など、多様な表現型を示します。世界蔬菜センターでは、遺伝資源465種類全てが栽培されています。

図2. SNPマーカーを用いたヒユナ遺伝資源の分類と地理的分布

円グラフは、各国・地域の亜集団 (Q1~Q4)と中間型の系統割合を示します。