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35. Nature Food論文:食料供給と需要の “距離” ローカル・フードシステム 対 国際貿易 

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2020年5月9日、The Economist誌にて、新型コロナウイルス感染症 (COVID-19)の世界フードシステムへの影響が論じられていました。農業は本質的にローカルな生産活動であるのに対し、食産業はグローバルに展開され、今日、約80億人の世界人口(2020年78億人)の五分の四が多かれ少なかれ輸入食料に依存し、農家が必要とする種子・化学肥料・農業機械・燃料も、巨大な商社ネットワークにより遥か彼方から調達されます。輸入依存が益々高まる世界において、COVID-19ショックが食料危機を再燃させる懸念もありますが、同時に貿易への参入者増加はシステムの安定化に貢献しているという見方もあります。2007-08年の世界食料危機にくらべ、現在の当時の2倍ほどの穀物ストックがあり、輸送費用も大幅に抑えられ、国際食料貿易は需給の変動に対する強靭性を強めているようです。

グローバル化はフードシステムの大きな変容を伴ってきました。食料貿易の拡大は、世界の国々が輸入をうまく活かして自国の生産制約を克服し、効率的な資源配分を達成しました(比較優位の議論)。国際貿易は栄養価に富む食料の供給元を多様化する一方、ローカルな食料生産システムの多様性を犠牲にし、市場危機への脆弱性を高め、生産と消費を乖離させる側面もありました。食料貿易のグローバル化によるネガティブなインパクトは、しばしローカルな小規模農業・市場を保護する食料主権の観点から議論されています。農業自身が温室効果ガス排出源である事実は脇に置かれ、ローカルなバリューチェーンの発展は輸送による排出の削減に貢献するという議論もあります。

COVID-19が契機となり、食料供給と需要をより近いものにしようとするフードシステムのローカル化が議論されることになるでしょう。しかしグローバルなフードシステムにおいて、食料を調達しうる最小距離についての情報は極めて限られています。2020年4月にNature Foodに発表された論文 (Local food crop production can fulfil demand for less than one-third of the population) は、6つの作物群(温帯穀物-小麦・大麦・ライ麦、コメ、メイズ、熱帯穀物-ミレット・ソルガム、熱帯根茎作物-キャッサバ、豆類)について、食料生産と消費の間の潜在的最小距離を推計しました。著者らは最適化モデルを用い、作物固有の食料生産域と消費間の距離を最小化する仮説的な食料流通システムを想定し、4つのシナリオ(ベースライン、イールドギャップの半減、フードロスの半減、イールドギャップ・フードロス双方の半減)を検討しました。ちなみにイールドギャップ(yield gap)は、農業において、最適な栽培体系のもとで期待される作物の潜在的な収量と実際に得られる収量の差を意味します。論文におけるイールドギャップの半減シナリオとは、栽培方法の改善等による収量の向上を意味していると考えられます。

シナリオ分析は、多くの地域で、ローカルに生産される作物がローカルな需要を満たすのに十分でなく、余剰地域から不足地域への食料の輸送が必須であるという結果を出しました。世界的に、温帯穀物・コメ・熱帯穀物・豆を100㎞圏内で調達できるのは22-28%の人口に限られます。キャッサバとメイズに関しては、100㎞内で需要を満たせるのは11-16%に過ぎません。全体として、半径100㎞の範囲で需要を満たすことができるのは、世界人口の三分の1以下である11-28%であると推定され、26-64%の人口は、食料供給と需要の距離は1,000㎞を超え、世界の人々の殆どが輸入に依存せざるをえない状況が浮かび上がります。

温帯穀物の需給距離は栽培に適した気候条件に強く制約されますが、人口の比重を加味した平均需給距離は約3,800kmです。世界人口の半分は900km圏内で需要を満たし、25%の人口は5200㎞以上の距離が必要です。北米や欧州では、需要は500㎞圏内で満たされますが、サブサハラ・アフリカでは5,000㎞に達します。コメに関しては、世界人口の50%は650㎞圏内で需要を満たしますが、残りの50%は需給距離が長く平均2,700㎞となります。メイズは比較的特殊で、北南米・欧州・アジアでは十分なメイズの余剰があり、人間による消費に限れば、需給距離は短くなり、平均1,300kmです。世界食料供給における重要性から温帯穀物とコメの影響が強く出ますが、人口や作物シェアの比重に配慮した6つの作物群の平均需給距離は2,200kmです。

イールドギャップとフードロスを半減するシナリオによって(主にイールドギャップ効果ー収量向上により)、需給距離に大きな変化が出るのは南米と東・北西アフリカ地域です。コメに関して、サブサハラ・アフリカは需給距離の大幅削減を達成し得ます。メイズでのインパクトが相対的に小さいのは、ベースラインにおいて他の作物に比べ需給距離が相対的に小さいことにあります。イールドギャップの縮小やフードロスの削減は、アフリカやアジアでローカル生産の拡大に重要ですが、十分で安定的な食料供給のためにはグローバルサプライチェーンもまだ必要です。

著者らは、本研究は、政策提言としてではなく、今後の議論のよりどころとなる全体像を示すことを目指す一方、当然制約があるとし、以下のように述べています。例えば、6つの作物群だけでは各国の食事事情を反映していません(アフガニスタンやレソト・バングラデッシュの食事を70%反映するが、ベルギーやアイスランドでは20%以下)。食事・貿易における畜産品や飼料の重要性にも配慮が必要です。食料・食料生産・フードシステムは人間の熱源としてだけでなく、効用・文化・伝統・社会経済・生活が複雑に絡まったものとして捉えられるべきです。国際貿易は食料安全保障と資源管理の万能薬ではありませんが、ローカル・フードを巡る議論もグローバル・フードサプライシステムよりも持続的な最善策であるとの理想論に陥りがちです。本研究は完璧ではないものの、食料需給の最低距離の検討は、ローカル・フードシステム対国際貿易を巡る議論に貢献すると信じています。

 

参考文献

The Economist. Keeping things cornucopias. The world’s food system has so far weathered the challenge of covid-19. But things could still go awry Briefing May 9th 2020 edition https://www.economist.com/briefing/2020/05/09/the-worlds-food-system-has-so-far-weathered-the-challenge-of-covid-19

Kinnunen, P., Guillaume, J.H.A., Taka, M. et al. Local food crop production can fulfil demand for less than one-third of the population. Nat Food 1, 229–237 (2020). https://doi.org/10.1038/s43016-020-0060-7

 

(文責:研究戦略室 飯山みゆき)