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1446. 情報の発信と発見(寳川通信12)
1446. 情報の発信と発見(寳川通信12)
研究者は、課題を設計して実験を行い、実験から得られた結果を解析し、考察を重ねて論文として外部に発信することが求められます。課題設計に当たっては、研究対象や研究ニーズの探索、研究対象に関する多くの先行研究等、多岐に渡る情報を現地調査やオンラインを通じて収集します。また、論文執筆時には、得られた成果を基に文献情報を整理し、得られた結果や考察の確からしさ、位置づけを明らかにしていきます。このように、研究者は多くの場面で情報収集能力を必要としています。
情報収集能力とは、情報を集める能力、整理する能力、そこから課題を抽出する能力を表すと考えられます。近年は、情報を取り巻く環境は刻一刻と変化し続けており、研究者に求められる情報収集能力も変わってきています。インターネットやスマートフォン、SNSの普及により、身の回りには膨大な量の情報が溢れています。加えて、気候変動や社会情勢の目まぐるしい変化に追随し、情報に関する需要も多様化しています。さらに、生成AI等の情報収集ツールが進化し、それらを有効活用する能力は当然のことながら、情報を取捨選択する能力、真実性を見極める能力が求められるようになりました。このような状況は、情報収集を日常的に行う研究者にとって、課題であると同時に新たな可能性をもたらすものといえます。国際農研では、多様な分野の研究者が連携し、開発途上国を中心とした世界の農林水産にかかわる食料問題・環境問題に関する情報を収集・発信しています。
少し話題を変えます。私は個人的な趣味として、古本屋を訪れ、古書を探すことを楽しんでいます。最近は、国内外の古書サイトを活用することも多いのですが、やはり実際に古本屋を巡る面白さは格別です。足を運ぶという点では、図書館でも良いという意見もあると思います。確かに図書館の方が網羅性は高く、絶対手の届かないレアな書籍にもアクセスできる強みがありますが、整理が行き届いている一方で、偶発的な出会いの機会は少ないように思われます。当然、こういう本が欲しいという目的をもって古本屋に行き、関連するコーナー(コーナー分けされてないと時間がかかるが。。。)を中心に閲覧するわけですが、時より思ってもいなかった書籍に出会い、魅了されることがあります。これを私は「情報の発見」だと思っています。
私事になりますが、父は定年後に動物を中心とした自然史に関する書籍を集めて千葉で私設図書室を開いています。そこでは、生物学や民俗学、絵本等、図書館では別々に整理されるようなジャンルの書籍がトピックに沿って並べられており、思わぬ結びつきを促す工夫が施されています。偶発的な出会いが新しい視点を生むという点で、情報探索にも共通する部分があるように感じます。
マーケティング業界では、Z世代を中心にSNSのショート動画が流行する現代を「検索」ではなく「回遊」による情報収集の時代と表現することがあります(参考文献参照)。また、偶発的に出会った情報を基にした購買意欲の向上を偶発購買とも呼ぶそうです(参考文献参照)。ただ、SNSを使ったことがある方はわかると思いますが、AIによって表示内容が最適化されることで、閲覧する情報が次第に偏ってくる傾向も見られ、情報の発見機会が自然と少なくなってくることも起こり得ます。
研究者は、情報の網羅性を追求しつつも、研究の独創性を確立する必要があり、偏りのない視点が求められます。国際農研のウェブサイトで発信しているピックアップ記事には、私が普段検索しないような情報を提供してくれることが多く、情報の発見を促す側面があると感じています。こうした発見は、関連する情報の更なる収集行動に繋がるばかりか、研究意欲の向上に直結することもあると思います。それでも少数の執筆者で構成されると、嗜好性や情報源のアクセス方法によって偏りが生じる可能性があります。今後は、様々な背景を持つ多岐に亘るユーザーの情報発見に繋がるような情報収集発信体制を構築し、生成AIの強い検索・整理能力、SNSの強い発信能力と共存しながら、多様な情報の「発見」を促す場づくりを目指していきたいと思います。
参考:
“検索しない世代”にどう届ける?Z世代以降の“偶然発見”型マーケティング戦略 | Meltwater
大回遊時代の購買潮流を捉え、新しい顧客接点の攻略に導く「偶発購買×トライブ」マーケティングとは? (1/3):MarkeZine(マーケジン)
(文責:熱帯・島嶼研究拠点 寳川拓生)