Pick Up
1437. カカオ安定生産に向けた研究課題
1437. カカオ安定生産に向けた研究課題
カカオ(Theobroma cacao L.)は南米原産で、主に赤道から南北に20度の範囲の狭い地域で栽培されています。温暖で湿潤な熱帯気候で、雨が多く、乾期が短い気候条件のある、西アフリカ、東南アジア、ラテンアメリカの小規模農園で主に栽培されており、これら地域の熱帯諸国にとって重要な換金作物です。
近年、国際カカオ価格は高騰し、世界銀行データによると、2025年1月には1キログラムあたり10.75ドルと史上最高値を記録、前年同月比で2.5倍、2年前同月比で約4倍まで高騰しました。その後、国際価格は下落をはじめ、2026年1月では1キログラムあたり4.97ドルと、前年同月比で半分近く価値が下落しています。
過去最近のカカオ価格の高騰については、世界のカカオ供給の大部分を生産する西アフリカにおいて、近年の気候関連リスクや「カカオ膨梢ウイルス病(cacao swollen shoot virus: CSSV)」と「黒鞘病(black pod disease)」といった病害虫発生が小規模生産者のカカオ収穫に打撃を与えた可能性についても指摘されていました。国連の記事は、供給サイドのショックが、短期的で価格弾力性のない世界のカカオ需要を背景に、価格高騰につながったと分析しています。
ある文献によると、最近の将来の気候予測では、西アフリカの現在のカカオ生産地域において、カカオ生産にとって重要な時期に気温上昇と降雨量の減少が予測されており、気温上昇、降雨量減少、乾期長期化、そして病害虫発生率上昇により、収量への悪影響が懸念されています。高温と干ばつは、光合成速度と蒸散速度の低下、光合成系の機能の生理学的プロセスの変化を通じて、カカオの生理機能に影響を及ぼすことが知られています。耐性品種の育種は、カカオの収量を増加させる方法の一つと考えられてきました。しかし、干ばつや暑熱への耐性、高い水利用効率、そして高収量を備えた品種の育種は、実績のある育種法の不十分な活用、カカオの生態生理学に関する情報の不足、カカオの長い選抜周期、そして交配親クローンのヘテロ接合性といった理由から、限界があることも指摘されています。そんな中、多くの植物学者は、カカオ生産の環境的持続可能性を確保するため、日陰の確保と良好なアグロフォレストリー慣行の推進を推奨しています。アグロフォレストリーは、種の多様性を高め、蒸発散量の抑制、土壌肥沃度の向上、強風などの悪影響からカカオを保護することなどが指摘されています。一方、カカオ栽培システムにおける共生樹(コンパニオンツリー)は、共生樹種の種類、および根圏の補完性または競合性によってプラスあるいはマイナスの影響がありえますが、木の大きさと寿命の長さからカカオの生態生理学研究には困難が伴うことも事実です。
別の論文は、西アフリカのカカオ生産に壊滅的な影響を与えるカカオ膨梢ウイルス病(cacao swollen shoot virus: CSSV)の農業生態系レベルでの発生要因の解明にあたり、コートジボワールの多様なカカオ栽培条件を代表する150のカカオ畑で2021年から2023年の間に収集されたデータを用いて分析を行いました。CSSVの発生率、気象条件、土壌特性、アグロフォレストリー変数の要因の類似性でクラスター化し、さまざまなスケールでの関連性を調査した結果、低いCSSV疾病発生率は、極端な降雨量の頻度増加と気温変動の低下と関連していました。逆に、高いCSSV発生率は、ウイルスを宿主とする樹木の密度の高さと関連していました。論文は、疫学、媒介虫の生物学、カカオの気の生理学に関する既存知識を活用し、病気の発生率が低い区画は主に非宿主地に囲まれており、大規模な管理戦略が効果を発揮する可能性があるとの解釈を導き出しました。
まとめると、カカオは、気温や降雨量変化による適地の変化だけでなく、気候変動による病害虫が発生しやすい気候パターン変化など、収量に負の影響を及ぼしかねない複合的なリスクにさらされています。既存の研究からは、カカオの安定生産に向け、リスクに対する品種・栽培方法の開発課題克服のほか、農業生態系レベルでの病害虫管理に向けた異分野連携の必要性が示唆されています。
(参考文献)
Mensah, E.O. et al. (2024). Cocoa Under Heat and Drought Stress. In: Olwig, M.F., Skovmand Bosselmann, A., Owusu, K. (eds) Agroforestry as Climate Change Adaptation. Palgrave Macmillan, Cham. https://doi.org/10.1007/978-3-031-45635-0_2
A. Dumont, et al, Associations between scale-dependent agroecosystem factors and cocoa swollen shoot virus incidence in Côte d’Ivoire, Agriculture, Ecosystems & Environment, Volume 393, 2025. https://doi.org/10.1016/j.agee.2025.109851.
(文責:情報プログラム 飯山みゆき)