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1264. AIが切り拓く食品開発イノベーション加速

1264. AIが切り拓く食品開発イノベーション加速
2050年までに、約100億人の人々に食料を供給するには、栄養価が高く持続可能な食料をすべての人々に確実に供給するための抜本的な変化が必要です。現在の食料システムは非効率で持続的ではなく、従来の変革の試みは、大規模なイノベーションを推進するには遅すぎます。
人工知能の可能性は、現代生活のあらゆる側面において、21世紀で最も議論を呼ぶトピックの一つです。食品科学も例外ではありません。食品科学におけるAIの力は過大評価されるべきではないですが、イノベーションにもたらす甚大な影響を無視することはできません。npj Science of Food誌に公表された論文は、食品分野におけるAIの強み、限界、そして食の未来の変革の可能性を検証しました。
従来の技術は、膨大な量のデータを処理・分析する能力に限界があり、大規模なイノベーションを推進するには遅すぎます。対して、食品生産システムの自動化と最適化、土地と水の利用における持続可能性と効率性の向上、食品ロスと廃棄の予測と削減において、AIの利用が増加しています。個人レベルでは、AIは食事に関する推奨事項を提示し、パーソナライズされた栄養指導を行うことができます。また、地球規模では、AIは構造的およびシステム的な変化を促進することができます。食品イノベーションの文脈において、AIは新たなタンパク質源の発見、味と食感を考慮した配合の最適化、生産プロセスの改善、消費者の嗜好の予測、そして動物性食品の栄養プロファイル・味・風味・食感を模倣した革新的な製品の創出を可能にします。
同時に、今日のAIシステムには、人間の文化に深く根ざした、食品の微妙な社会的、倫理的、そして感覚的側面を完全に把握する能力が欠けていることは明らかです。これは、AIという技術自体の一般的な限界ではなく、適切なデータが現在不足していること、または大規模なビッグデータを処理できないことを反映した一時的な限界です。今日の食品向けAI技術のほとんどは、ラベル付けされたデータと人間のフィードバックに基づく教師あり学習に大きく依存しています。他の多くのAI応用と同様に、基礎モデルの構築と事前学習のプロセスをデータサイエンスの専門家が担当し、食品科学の専門家がそれぞれのニーズに合わせてモデルを微調整するという分業体制も考えられます。
AIは、食品システムを変革するために必要な、人間の専門知識、文化的理解、そして変革をもたらす創造性を完全に置き換えることはできません。しかし、AIとの相乗効果を生み出すパートナーシップを通じて、より健康的で持続可能な食の未来を、従来の試行錯誤的なアプローチでは達成できない精度で、迅速かつ安価に、そして効率的に構築できるという希望があります。こうした進歩は、食料システムのレジリエンス(回復力)を大幅に向上させ、食料安全保障を強化し、温室効果ガスの排出量を削減することで、人類と地球の健康に貢献する可能性があります。提案されたアプローチの成功は、成果をオープンソースで共有し、AIの力を活用して複雑なデータを分析し、ソリューションを設計し、持続可能な食料の未来に向けた食品科学、発見、イノベーションを民主化する新たな機会を創出する意欲に大きく左右されます。
(参考文献)
Kuhl, E. AI for food: accelerating and democratizing discovery and innovation. npj Sci Food 9, 82 (2025). https://doi.org/10.1038/s41538-025-00441-8
(文責:情報プログラム 飯山みゆき)