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1256. 人間開発の進捗は35年ぶりの低水準に

1256. 人間開発の進捗は35年ぶりの低水準に
国連開発計画(UNDP)が発表した新たな報告書によると、人間開発の進捗は前例のない減速を経験しています。2025年版人間開発報告書「選択の問題:人工知能(AI)時代の人々と可能性」は、人間開発指数(HDI)と呼ばれる保健・教育・所得水準等を反映した指標を用いて開発の進捗状況を分析した結果、2024年に世界中のすべての地域でHDIの進歩が停滞していることを示しました。
報告書はまた、富裕国と貧困国の間の格差が拡大していることを明らかにしています。報告書によると、低HDI国と非常に高いHDI国の間の格差は4年連続で拡大を続けており、それ以前に長期的に格差が縮小してきた傾向を覆しかねません。HDIスコアが最も低い国々にとり、貿易摩擦の激化、債務危機の深刻化、そして失業を伴う工業化が問題になっています。
2024年の停滞した進歩が『新たな常態』となれば、2030年という節目は数十年も先送りされ、世界の安全保障は低下し、分断は深まり、経済・生態系のショックに対する脆弱性は増すでしょう。世界が長期的な進歩の停滞から脱却するためには、断固たる行動が必要です。
この報告書には、AIがもたらす変化について人々が現実的でありながらも希望を抱いていることを示す新たな調査結果が掲載されています。世界中の回答者の半数は、自分の仕事が自動化される可能性があると考えており、10人中6人がAIが雇用にプラスの影響を与え、現在存在しないかもしれない仕事の機会を生み出すと期待しており、AIが雇用喪失につながる可能性を懸念しているのは、調査回答者のわずか13%でした。HDI低位および中位の国々では、70%がAIによって生産性が向上すると期待しており、3分の2が今後1年以内に教育、医療、または仕事でAIを活用すると見込んでいます。この結果は、世界中の人々がこうした「リセット」を受け入れる準備ができていることを示しています。
報告書は、3つの重要な行動分野を概説しています。
- 人々がAIと競争するのではなく、AIと協働する経済を構築する
- 設計から導入まで、AIのライフサイクル全体を通して人間の主体性を組み込む
- 21世紀のニーズに対応するための教育および医療システムの近代化
AIの民主化は既に進行中です。電力とインターネットの格差を解消することがこれまで以上に急務ですが、アクセスだけでは十分ではなく、AI が人間の活動をどれだけ効果的に補完し、強化できるかにかかっています。
(参考文献)
UNDP (2025) The 2025 Human Development Report https://hdr.undp.org/content/human-development-report-2025
(文責:情報プログラム 飯山みゆき)