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1247. 急激な気温反転と気候変動

1247. 急激な気温反転と気候変動
急激な気温反転(rapid temperature flips)とは、極端に高温から低温へ、あるいはその逆の急激な気温変化を指します。温暖から寒冷への反転の顕著な例としては、2012年3月に北米で発生した事象で、1週間も経たないうちに気温が平年より約10℃高い状態から平年より5℃低い状態へと低下し、農作物の早期開花と、それに続く異常寒波による被害につながりました。2020年9月、北米ロッキー山脈では、猛暑から1日以内に20℃を超える気温低下を伴う厚い雪景色へと突然移行し、停電、物的損害、日常生活の混乱につながりました。ヨーロッパでは2021年4月に気温が温暖から寒冷へと大きく反転し、農作物に広範囲にわたる霜害が発生しました。これらの災害事例は、急速な気温反転について、包括的な理解を確立することが緊急に必要であることを示しています。
急激な気温変化への適応時間は限られているため、どちらの方向への気温変化も、独立した極端な高温現象や極端な低温現象が社会システムや自然システムに及ぼす悪影響を増幅させる可能性が高く、人間や動物の健康、インフラ、植生、農業に影響を及ぼしますが、そのメカニズムはまだ解明されていません。
Nature Communicationsで公表された論文は、1961年から2023年にかけて地球規模で発生した気温反転(5日以内に平均気温より1標準偏差高い気温から低い気温に急激に変化する現象)のデータを分析、観測データは気候モデルと統合され、長期的な傾向と、様々な気候変動シナリオにおける21世紀末までの将来予測の変化を分析しました。
分析の結果、分析対象となった世界の地域の60%以上で、1961年以降、気温反転の頻度、強度、遷移速度が増加していることが判明しました。最も大きな増加は、南米、西ヨーロッパ、アフリカ、南アジアおよび東南アジアで観察されました。
高排出シナリオでは、気温反転の強度と期間は2071年から2100年の間に増加し、両極端間の遷移期間は短縮すると予測されています。論文は、世界人口の気温反転への曝露が100%以上増加する可能性があると予測しており、低所得国では急激な気温反転への曝露が最も大きく増加し、世界平均の4~6倍に達すると見込まれています。一方、低中排出シナリオの予測では、世界全体の排出量とそれに伴う温暖化を削減するための対策を講じることで、世界人口の曝露増加を抑制できることが示唆されています。
論文著者らは、気温反転への適応能力は世界中のどこでも強化する必要があるが、人口の多い発展途上国では特に強化する必要性を訴えました。
(参考文献)
Sijia Wu et al, Rapid flips between warm and cold extremes in a warming world, Nature Communications (2025) https://www.nature.com/articles/s41467-025-58544-5
(文責:情報プログラム 飯山みゆき)