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1195. 2.7℃温暖化の北極圏への影響

1195. 2.7℃温暖化の北極圏への影響
2024年、地球の年間平均地表気温は近代史上初めて産業革命以前の水準を1.5°C上回りました。この温暖化は世界中で既に数多くの、しばし壊滅的な異常気象を伴っています。パリ協定に基づく現在の国レベルの炭素排出量削減のコミットメントのもと、2100年までに世界の気温は産業革命前の水準より2.7°C(2.5°~3°Cの範囲)上昇すると予測されています。
人為的な気候変動は世界中のあらゆる地域に影響を及ぼしており、最も影響を受けている地域の一つが北極圏です。隔絶された環境、野生生物、文化、美しい景観で私たちを魅了してきた北極圏は、地球上で最も急速に温暖化している地域で、現在、世界平均のほぼ4倍の温暖化が進んでいます。この温暖化の鍵となるのは海氷の減少で、冬の氷がほとんどなくなったバレンツ海などの地域では世界平均の7倍の温暖化が進んでいます。
Scienceで公表されたレビュー論文は、2.7℃の温暖化のもと、北極圏が現代では認識できないほど変化する可能性を示しました。今世紀末までに地球温暖化が 2.7°C に達した場合、北極への影響は現在観測されている影響をはるかに超えるものになります。たとえば、冬季の平均気温上昇は 10°C を超えると予想されます。これは人類史上前例のない変化で、北極海が長期間氷のない状態になったのは、約 13 万年前の最終間氷期が最後です。これらの地球物理学的変化は、広範囲にわたる生態系の混乱やインフラのダメージを伴います。
北半球高緯度地域に広がる永久凍土に着目します。約 1,500 万 km2 と推計される面積は北米大陸とほぼ同じ大きさで、最も寒い地域では厚さが数百メートルに及ぶこともあります。温暖化に最も早く反応し、生態系と人間に最も影響を与えるのは、表面の永久凍土 (地表から 0 ~ 3 メートルの深さ) です。北半球の永久凍土地域全体には、1,440 ~ 1,600 Gt の有機炭素が含まれていることが知られており、さらに深層堆積物と海底永久凍土には、定量化が不十分ではあるものの 1,000 Gt の有機炭素が含まれていると推定されています。これは現在大気中に存在する炭素の 2 ~ 3 倍に相当します。そのため、この巨大な凍結炭素プールのほんの一部でも放出されると、大気中の二酸化炭素とメタンの濃度が大幅に上昇し、気候変動の速度が加速する可能性があります。
2.7°Cでは北極の気候システムの変容が非常に広範囲に及ぶため、北極は現在私たちが知っている北極とは似ても似つかなくなり、社会のあらゆる分野に連鎖的なリスクが生じます。人類はさまざまな気候条件に適応してきましたが、温暖化が続くと、それに伴う猛暑、異常気象、海面上昇により、世界の一部が居住不可能になる可能性があります。論文は、地球温暖化を抑制するための取り組みを強化することで、リスクを大幅に削減する必要性を訴えました。
(参考文献)
Julienne C. Stroeve et al. Disappearing landscapes: The Arctic at +2.7°C global warming.
Science Vol. 387, No. 6734 https://www.science.org/doi/10.1126/science.ads1549
(文責:情報プログラム 飯山みゆき)