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1187. 陸上ベース緩和戦略と生物多様性保全のバランス

1187. 陸上ベース緩和戦略と生物多様性保全のバランス
現在進行中の気候変動と闘う世界的な取り組みにおいて、温室効果ガス排出量を削減するだけでなく、大気からの炭素除去の量も増やす必要があります。とりわけ炭素排出量ネットゼロを達成するうえで、植物による炭素固定を利用する陸上ベースの緩和戦略は、現在スケーラブルな炭素除去の唯一の方法と考えられています。
陸上ベースの緩和戦略(Land-based mitigation strategies: LBMSs)の中でも、自然林再生(歴史的に森林に覆われたバイオームの樹木被覆再生)、植林(歴史的に森林に覆われていないバイオームの樹木被覆増加)、炭素の回収と貯留によるバイオエネルギー作付、があります。一方、気候変動への取り組みが加速する中、LBMSを導入することで、生物多様性を不用意に危険にさらさないようにすることが急務です。生物多様性の観点から、LBMSは善意の戦略であっても予期せぬ悪影響をもたらす可能性がある中、その影響について予測することは重要です。
Science誌に掲載された研究は、LBMSが生物多様性に及ぼす潜在的な影響を判断するうえで、2つの経路に着目しました。まず、LBMSは地域の土地被覆を変え、種が利用できる生息地を増減させる「生息地転換効果“habitat conversion effect”」と、LBMSの大規模な展開による気候変動緩和により種の地理的範囲の制限を変化させる「気候緩和効果“climate mitigation effect”」があります。生息地転換効果は、陸上の緩和プロジェクトと重なる範囲を生息地とする種にとって大きい可能性がある一方、気候緩和効果は個々の種への影響は小さいが世界中のすべての種の生息地に対する累積的な影響が大きい可能性があります。
論文著者らは、14,234種の脊椎動物種の気候と生息地の要件をモデル化し、これらの戦略が種の生息地面積に与える影響を分析した結果、劣化した森林の再生を通じた生息地転換が最も有益な効果がある可能性を示しました。場所を問わず、森林再生は土地被覆の変化と気候緩和の両方を通じて種に生息地を提供する傾向がありますが、植林とバイオエネルギー作付に伴う生息地の喪失は、気候緩和の利益を上回る傾向があります。
陸上ベースの緩和戦略の展開にあたっては、生物多様性の生息地を踏まえた計画が必要となります。
(参考文献)
Jeffrey R. Smith et al. 2025. Variable impacts of land-based climate mitigation on habitat area for vertebrate diversity. Science. 23 Jan 2025, Vol 387, Issue 6732, pp. 420-425, https://www.science.org/doi/10.1126/science.adm9485
(文責:情報プログラム 飯山みゆき)