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1141. 世界の農業食料システムの隠れたコストは年間12兆ドルにのぼる

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1141. 世界の農業食料システムの隠れたコストは年間12兆ドルにのぼる

 

11月8日、国連食糧農業機関(FAO)は、世界食糧農業白書(SOFA)2024年版を公表しました。 

SOFA 2024版は、156カ国を対象に行った詳細な調査をもとに、農業食料システムにおける隠れた環境・健康・社会コストが推計で総額年間約12兆ドルに達することを確認しました。この数字のうち、約70%(8兆1000億ドル)は不健康な食生活パターンから生じており、心臓病・脳卒中・糖尿病などの憂慮すべき非感染性疾患(NCD)に関連しており、環境悪化や社会的不平等に関連するコストをはるかに上回っています。

「State of Food and Agriculture 2024 (SOFA)」は、2023年版をベースに、さらに詳細な分析を提供し、真のコストアカウンティングを活用して、市場価格に反映されない、いわゆる「隠れたコスト・ベネフィット」を含む、食料の生産・流通・消費に関連する費用・便益を明らかにしています。

本報告書は、農業食料システムの類型ごとにコストを見積り、農業食料システムの変革の道筋を示しています。分析を進めるうえで、本研究は、農業食料システムを6つの異なる発展段階にあるグループ(長引く危機、伝統的、拡大基調、多様化、フォーマル化、工業化)に分類しました。この類型を用いることで、各システムに固有の課題と機会に的を絞った理解が可能になり、カスタマイズされた政策と介入が可能になります。分析の結果、隠れたコストの比重は、農業食料システムの類型によって異なることが明らかになりました。

歴史的に、農業食料システムは伝統的なシステムから工業的なシステムへと移行し、それぞれ異なる隠れたコストを伴ってきました。例えば、長引く危機システム(長期にわたる紛争、不安定性、食料不安、を特徴とする)や伝統的システム(生産性の低迷、技術採択が限定的、矮小なバリューチェーン、を特徴とする)では、主な懸念事項は果物や野菜の摂取量が少ないことです。一方、高中所得国と高所得国の工業化された農業食料システムにおいては、隠れたコストが主に健康コストによるもので、環境コストが続きます。

ナトリウムの摂取量が多いことも大きな懸念事項です。農業食料システムが伝統的なものからフォーマル化へと移行するにつれて摂取量は増加傾向・ピークに達し、工業化システムでは減少していきます。逆に、加工肉や赤身肉の大量消費は、伝統的システムから工業化システムへの移行を通じて着実に増加し、食生活リスクのトップ3にランクされています。

食生活のリスクだけでなく、持続不可能な農業慣行の環境への影響も、隠れたコストの増大に大きく貢献しています。 温室効果ガスの排出、環境への窒素の流出、土地利用変化、水質汚染に関連するコストは、農業食料システムが多様化している国で特に高く、急速な経済成長と消費と生産のパターンの進化が相まって、推定7,200億ドルに達します。フォーマル化および工業的な農業食料システムも、大きな環境コストに直面しています。しかし、長引く危機に直面している国々は、GDP比20%と、相対的に最も高い環境コストを負担しています。

貧困や栄養不良などの社会的コストは、伝統的システムや長引く危機システムで大きく、人それぞれGDPの8%と18%を占めており、生活の改善と人道、開発、平和構築の統合的な取り組みが緊急に必要であることを浮き彫りにしています。
SOFA 2024は、地域の状況に適応し、当事者の優先事項を捉えることの重要性を強調しています。

(参考文献)
FAO. 2024. The State of Food and Agriculture 2024 – Value-driven transformation of agrifood systems. Rome. https://doi.org/10.4060/cd2616en

 

(文責:情報プログラム 飯山みゆき)
 

 

 

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