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1052. 農業分野における炭素貯留

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1052. 農業分野における炭素貯留

 

食料生産は二酸化炭素換算での温室効果ガス排出の4分の1に責任があるとされています。世界人口に食料を供給するための集約的な農慣行は、土壌中の炭素の喪失につながってきたとされています。一方、近年、気候変動緩和対策において農業分野における炭素貯留に大きな期待が集まっています。

6月19日、Nature誌の論説は、収量向上しつつ炭素貯留を促進する農法開発にとりくむ農家・科学者の取り組みを紹介しました。 

土壌中の炭素貯留を促進する農業技術は必ずしも複雑ではありませんが、とりわけ2050年までに、気候変動緩和と土壌の健全性改善を通じたネットゼロ排出を達成するうえで、効率的で経済的に低コスト、そして急速に普及を実現することが求められています。

土壌有機炭素は、光合成によって植物が二酸化炭素を大気から吸収し、とりわけ根茎システムに貯留されますが、これが土壌炭素貯留となります。

土壌炭素を増やすことは技術的に難しいことではありませんが、土壌から短期的なリターンを追求しようとする人類の欲がその実現を阻んできました。とりわけ深く耕起を行うことで有機物の分解が加速し、作物に養分を供給することが収穫増につながってきました。この過程が土壌から大気中への二酸化炭素排出に繋がり、土壌構造を破壊して水食や風食による土壌劣化のリスクを高め、さらなる温室効果ガス排出に繋がるという悪循環をもたらしてきました。

土壌中炭素の貯留法の一つとして、土壌構造を攪乱せず土壌有機物をそのまま残す不耕起や最小耕起の可能性に注目が集まってきました。一方、不耕起が必ず土壌炭素貯留を増加させるというエビデンスばかりではなく、土壌炭素貯留量は気候と土壌タイプに左右されるようです。

土壌炭素を保持するもう一つの方法として、カバークロップの導入があり、北米や欧州のブドウ畑などで普及しているようです。さらに、最近は玄武岩を土壌に投入し、岩石の風化を通じた炭素貯留にも関心が高まっています。一方、森林破壊が農業由来の炭素排出主要因ですが、農業システムにおけるアグロフォレストリーも注目されています。

著名な土壌研究者であるオハイオ州立大学のRattan Lal博士は、もし世界が非化石燃料に転換すれば、長期的に農業由来の土壌炭素貯留が排出を上回るはずと推計しています。

一方、土壌科学者コミュニティの間でも土壌炭素貯留の可能性についての意見は割れており、その原因として土壌炭素量の測定の困難さを挙げています。土壌炭素量は、わずかな空間的距離でも変動することから正確な測定に多くのサンプルを要すること、また自然条件や時間要因でも変動していくため、どうしても測定にコストがかかります。

また、農家は科学者の意見を必ずしも取り入れるわけではなく、社会文化的な障壁を乗り越える必要も指摘されています。一方で、すでにカーボンファーミングに取り組んでいる農家は、炭素クレジットの経済的便益以上に、気候変動の影響を目にし、環境再生の必要性にかられているようです。

 

(参考文献)
How farming could become the ultimate climate-change tool: A generation of farmers and scientists are finding ways to sequester carbon in the soil while improving crop yields. By Bianca Nogrady. Nature 630, S23-S25 (2024) https://www.nature.com/articles/d41586-024-02036-x

(文責:情報プログラム 飯山みゆき)
 

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