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975. 「人新世」地質時代提案の否決

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975.  「人新世」地質時代提案の否決

 

1950年代を境に、人類の活動が地球全体に影響を及ぼすようになったとして、科学者の間では新たな地質時代「人新世」を定義する動きが進められてきました。昨年7月、国際地質科学連合(IUGS)の作業部会が、人新世を新たな地質時代とする『国際標準模式層断面及び地点』候補にカナダのクロフォード湖を選定していました。しかし、このたび、IUGSの小委員会が「人新世」の提案を否決したと伝えられています。

Nature誌Science誌の論説は、15年にわたる論争の末に提案が否決されたことに言及しつつ、気候変動や生物多様性喪失などのインパクトが加速していることを科学者らが否定しているのではなく、人類の地球への影響をより掘り下げて包括的に論じる必要性があったとコメントしています。 

人新世の提案は、もし採択されていたならば、クロフォード湖の10㎝ほどの堆積物の層に水素爆弾からのプルトニウム・化石燃料・農薬・肥料の痕跡が見いだされることを根拠に、1950年代に人新世が開始し、11,700年前の氷河期来の完新世が終わることを意味していました。

しかし、人類が地球システムに及ぼしてきた影響は、農耕の開始、ヨーロッパによる海外進出、産業革命、そのほか数多くあり、科学者の間でも、今回の人新世定義よりも広くすべしとする意見が多くあったようです。むしろ、人類の地球へのインパクトが長期にわたって展開してきたことを踏まえ、23-25 億年以上前に起きた地球大酸化イベント( Great Oxidation Event:酸素濃度が上昇し始め、複雑な細胞・動物・そして人類の誕生のきっかけとなった)のように、人新世を地質時代として厳密に特定するよりも、むしろ地質学史上の「イベント」として捉えることで、より掘り下げた包括的な定義を試みるべきだ、という議論も出てきているそうです。

Nature/Science両論説とも、このたびの投票手続きに問題ありと否決決議に異議を唱える委員もあるとしつつ、仮に人新世が地質学的な新時代と認めらなかったとしても、インフォーマルな概念として、既に広く認知されつつあることに言及しました。


(文責:情報プログラム 飯山みゆき)
 

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