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970. セラードにおける食料生産と保全

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970. セラードにおける食料生産と保全

 

セラードは、ブラジル高原に広がるサバンナで世界の穀倉地帯ですが、農地拡大に伴う森林破壊が進行しています。2月末、世界経済フォーラムが公表した報告書は、セラードにおける農業生産と自然保護の状況について分析し、地域の豊かな自然保全と持続的食料生産のバランスをとるアプローチの必要性を訴えました。

ブラジル中央部に位置するセラードは、日本の面積の5.5倍、あるいはイギリス・フランス・ドイツ・スウェーデン・スペインを合わせた面積に相当し、ブラジル総面積の23.3%を占めています。また、セラードは、陸域の生物種の5%に相当する生物多様性に恵まれ、ブラジルの淡水資源の14%を占めています。

一方、この地は土壌肥沃度が低く、かつては不毛の土地と呼ばれ、農業の展開も1970年代半ばまで肉牛生産にとどまっていました。しかし、政府主導の開発により、農家への安い農地の提供と品種改良・土壌管理・輸送インフラへの投資が大々的に行われた結果、20世紀後半から40年たらずの間に、セラードは世界の穀倉地帯となります。安定的な降水量と温暖な気温により、場所によっては年3回の耕作が可能です。セラードはいまやブラジル農業生産の60%、世界の大豆生産の22%、世界のサトウキビ生産の23%を占め、世界の食料安全保障に不可欠な存在となっています。

この奇跡とも言われるセラードの成功は、多大な環境コストも伴ってきました。その北部に位置するアマゾン熱帯林に比べ、セラードは世界からほとんど注目されず、法的保護も十分でないことから、地域内で森林破壊が進んでいます。政府のデータによれば、昨年、アマゾンの森林破壊は4,000km2と前年比で62%減速したのに対し、セラードにおける森林破壊は7,800km2と前年比で43%と急激に増加しました。セラードの総面積の殆ど(84%)が私的所有下にあり、保護区として指定されているのは8%に過ぎず、アマゾンでの保護区指定地が46%であるのに比べても過少です。セラードにおける農地転換は主に私的所有地内で行われ、私的所有地の65-80%で農業がおこなわれています(アマゾンでは20%)。セラードでは土地価格が極めて安いことも農地拡大・開墾の誘因となり、既にセラード植生の半分が焼失しています。

現在のトレンドが続けば、ブラジルのダイズ・肉牛・サトウキビ・トウモロコシ生産が依存している生態系が破綻し、世界の食料安全保障を脅かし、甚大な経済損失をもたらす恐れがあります。世界中で気候変動・生物多様性の喪失に対する対策が求められる中、次世代のために、セラードの自然・生態系を保全していくことが喫緊の課題です。

報告書は、セラード地域における自然保護と持続的農業生産のバランスをとることで、ブラジル経済に2030年まで毎年720億ドルの便益をもたらすことが可能であるとします。報告書は、セラードにおける持続的な農業集約化を実現する具体的な方法として、自然な植生の農地転換を抑制する一方、劣化した牧草地を耕畜連携・アグロフォレストリー・不耕起農業・再生可能型農業などの低GHG排出型農法を推進することを提案しました。


(参考文献)
World Economic Forum (2024) The Cerrado: Production and Protection WHITE PAPER FEBRUARY 2024. https://www3.weforum.org/docs/WEF_Sustainable_Transition_Cerrado_2024.p…

 

(文責:情報プログラム 飯山みゆき)


 

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