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944. サブサハラアフリカにおける気候変動に対応した栄養供給実現にむけて

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944. サブサハラアフリカにおける気候変動に対応した栄養供給実現にむけて

 

本日は、Nature foodに掲載された論文(Jennings et al. 2024)を、それに対する解説(Mason-D’Croz, 2024)も参照しながらご紹介します。

サブサハラアフリカでは、気候変動のリスクが増大し、また人口も増加しています。ますます重要となる栄養安全保障の強化のためには現地の状況に即した強力なエビデンスが必要となりますが、これまで気候変動に対応した農業(climate-smart agriculture)と栄養安全保障とを同時に評価した研究はほとんどありませんでした。

本研究では、マラウイ、南アフリカ、タンザニア、ザンビアの4か国を対象として、統合評価フレームワーク (integrated assessment framework: iFEED) を利用し、気候変動に対応した栄養安全保障に向けたフードシステム変革のシナリオを多様な関係者(フードシステムの幅広い分野の専門家。政府、学者、市民社会、農業セクター等)主導のもと調査しました。なおiFEED は気候 – 食料 – 排出モデリングを政策に関連した情報に翻訳します。

モデリング・シナリオ分析の結果、今世紀半ばまでに持続可能で気候変動に対応した栄養供給を達成するためには、現在のままでは不十分でした。微量栄養素が豊富でありながら当該国で消費量が不十分な食品(特に野菜と果物)に向けて農業生産を多様化することが必要だと示されました。作物多様性を高めることは栄養面でのメリットだけでなく、少数の作物への過度な依存を減らすことで気候変動へのレジリエンスを高める効果もあります。

また、作物生産性向上への投資も無視できないことが示されました。前例のないほどの急速な生産性向上が達成されない限り、将来の食料需要は、農地拡大(生物多様性や環境目標を犠牲にする)か、輸入増加(経済的・政治的リスクを含む)に頼らざるを得ません。

このようなモデリングとシナリオ設計による分析は増えてきていますが、依然としてトップダウン型で世界的な目標に焦点があてられることが多く、気候変動のリスクや食料不安がより深刻な低・中所得国の国・地方レベルの複雑な政策課題に焦点をあてたものは限られます。そのような中で、本論文のような取り組みは貴重な知見を提供しています。

 

(参考文献)
Jennings, S., Challinor, A., Smith, P. et al. Stakeholder-driven transformative adaptation is needed for climate-smart nutrition security in sub-Saharan Africa. Nat Food (2024). https://doi.org/10.1038/s43016-023-00901-y
Mason-D’Croz, D. National assessments highlight links between climate and nutrition policy. Nat Food (2024). https://doi.org/10.1038/s43016-023-00895-7

 

(文責:情報広報室 白鳥佐紀子)


 

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