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850. 食料価格の高騰は貧困を増やすのか?減らすのか?

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850. 食料価格の高騰は貧困を増やすのか?減らすのか?

食料価格の高騰が貧困に与える影響は少々複雑です。本日は、Nature Food に掲載された論文(Headey & Hirvonen, 2023)を紹介します。

食料価格は2007-2008年、2010-2011年、2021-2022年に急騰しました。これらの食料価格急騰が貧困に与える影響には議論の余地があります。貧しい人々にとって食料は大きな「出費」である一方で、多くの貧しい人々は食料の生産や販売からも「収入」を得ているため、食料価格の上昇は食料生産の拡大を促すはずです。

本論文では、世界銀行の貧困基準に基づいた中所得国33か国における2000年から2019年までの貧困率、実質食料価格の変化、食料生産の伸びに関する年次データを分析しました。パネル回帰分析によると、都市部や非農業国を除き、食料の実質価格の前年比上昇により、1日あたり3.20米ドル以下で暮らす貧困人口の減少が推定されました。

国際的な食料価格の高騰は都市部の貧困層に問題を引き起こす可能性があるとはいえ、これまでの研究からは、国内の食料価格の上昇は少なくとも数年間にわたって国レベルで貧困削減につながる傾向があることが示されていました。ただ、なぜそうなるのかをうまく説明できていませんでした。本論文では比較的短期間の年次パネルを使用して、食料価格の上昇は、都市化が進んでいない(より農業中心の)経済では貧困を削減し、より都市化が進んでいる経済では貧困の総計に殆ど影響を与えないことを示しました。

世界の貧困層のほとんどは依然として農村部で農業に携わっています。国内小売価格の上昇に対する食料供給の反応は非常に強く、また食料供給には労働需要の増加が伴い、短期的には少なくとも農村部の賃金が上昇することがわかっています。これらを総合すると、食料価格の高騰が短期的な農産物の供給を促し、非熟練労働者の需要増加と賃金上昇を誘発し、農村部の貧困削減を刺激しているという説得力のあるストーリーになります。

なお、データは農村部と都市部の貧困推計を個別に報告しておらず国レベルであること、食料価格高騰と貧困削減の関連性は見出されても因果関係が確立しているわけではないこと、肥料や燃料の価格上昇には焦点をあてていないことなど、本論文の限界にも言及しています。また、2007 -2008 年の危機では世界・国レベルで貧困が減少しましたが、2021- 2022 年の危機ではコロナによる財政悪化や食料、燃料、肥料のインフレのため容易に再現できないかもしれないとも述べられています。

 

(参考文献)
Headey, D., Hirvonen, K. Higher food prices can reduce poverty and stimulate growth in food production. Nat Food 4, 699–706 (2023). https://doi.org/10.1038/s43016-023-00816-8

(文責:情報広報室 白鳥佐紀子)

 

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