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839. 温暖化のもとでの異常気象リスク

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839. 温暖化のもとでの異常気象リスク

この夏休み中も、世界の各地から極端な山火事や台風に伴う洪水の被害が報道されていました。温暖化が進行するにつれ、このような極端現象が人々の生活に影響を与える確率は高まることが予測されており、備えのための情報、および温室効果ガス排出削減へのコミットメントが緊急に必要とされています。


最近、Earth's Future 誌に公表された論文は、従来よりも16-64倍空間解像度の精度の高いNASAの気象予測データを用い、世界各地における気温・降雨・湿度・放射・風速といった指標変化を予測し、熱ストレスや火災などの異常現象が起こる状況について分析を行いました。

これまでの研究からも、産業化以前に比べて2℃の温暖化のもとで危険な災害を伴う異常気象が雪崩式に起こることが予測されています。今回の研究は、気候変動に関する変数は相互に影響しあって人々の生活に多大な被害を及ぼしうるとしました。例えば、高温と湿度が組み合わさって人々の健康に危機的なリスクをもたらす熱ストレスは、2040年代までに世界中で増加が予測されますが、とくに赤道付近の国々は極度の熱ストレスにさらされる日数が増え、東アフリカやサヘルなど熱ストレス相当の日数がベースライン(1950-1979年)に比べ1カ月近く増加する地域も見込まれています。研究はまた、極端な山火事の被害が増加することを予測し、気温・降雨・湿度・風速といった指標を組み合わせた火災気象指標(a fire weather index, FWI)が、アマゾン、北米中部および西部、地中海で大きく上昇する可能性を指摘しました。

研究者らは、精密な空間モデルは、地域レベルでの気候変動適応・緩和の計画や意思決定を可能にすることを期待しています。 同時に、研究者らは、以上に述べたような異常気象のリスクを回避していくためにも、全ての関係者が産業革命以来の温暖化を2℃以下、可能な限り1.5℃以下にとどめるため、温室効果ガス排出削減のコミットメントを拡充し、実行を加速することを訴えています。 


頻繁に起こる猛暑と洪水、進み続ける気球温暖化を防止するには、大気中の温室効果ガス濃度の継続的な増加を食い止める必要があります。主要な温室効果ガスである大気中の二酸化炭素濃度は18世紀半ばに始まった産業革命以来急激に上昇し、それまでの平均であった270~285 ppmを大きく上回るようになりました。世界的な環境活動家のグレタ・トゥーンベリ氏のSNSアカウント自己紹介欄に「生まれたのは375ppmだったころ」(Born at 375ppm)書かれています。トゥーンベリ氏が生まれた2003年の世界の大気中二酸化炭素濃度は375ppmでしたが、それから20年経った現在、この数字は420ppmに達しています。

頻繁に起こる猛暑と洪水、進み続ける気球温暖化を防止するには、温暖化の原因となっている大気中温室効果ガス濃度の継続的な増加を食い止め、削減していく必要があります。気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の第6次評価報告書(AR6)によれば、2019年の調査時点における世界の人為的な温室効果ガスの排出量は59Gt(ギガトン)とされ、その64%が化石燃料利用及び産業由来の二酸化炭素、11%が土地利用、土地利用変化及び林業(LULUCF)分野の二酸化炭素が占め、その他メタン(18%)、亜酸化窒素(4%)と続きます。

農林水産業部門からの主要な温室効果ガス排出源は、LULUCEF分野の二酸化炭素、および水田・家畜由来のメタン、そして化学肥料由来の亜酸化窒素が挙げられ、この分野における排出削減の努力が求められます。一方、排出される二酸化炭素の一部は、海、陸地、土壌に吸収され、貯留されます。LULUCEF分野において、農地拡大や森林火災などによる土地利用変化を最小限に抑えつつ、森林・土壌等の貯留能力向上につながるイノベーションの役割が、カーボンニュートラルの実現に向けて極めて重要になります。


※Ppm:parts per million, 1ppm=0.0001%


(参考文献)

Thrasher, B., Wang, W., Michaelis, A. et al. NASA Global Daily Downscaled Projections, CMIP6. Sci Data 9, 262 (2022). https://doi.org/10.1038/s41597-022-01393-4

Taejin Park et al, What Does Global Land Climate Look Like at 2°C Warming?, Earth's Future (2022). DOI: 10.1029/2022EF003330

IPCC  AR6_WGIII_FullReport https://www.ipcc.ch/report/ar6/wg3/downloads/report/IPCC_AR6_WGIII_Full… 

NOAA https://gml.noaa.gov/webdata/ccgg/trends/co2/co2_annmean_gl.txt


(文責:情報プログラム トモルソロンゴ、飯山みゆき)
 

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