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1176. 温暖化のもとでの水文気候の変動性

1176. 温暖化のもとでの水文気候の変動性
2025年の年明け、ロサンゼルスは深刻な山火事に見舞われましたが、この背景に「水文気候のむち打ちhydroclimate whiplash」に例えられるほどの「水文気候の急変hydroclimate volatility」を指摘する研究者もいます。ロサンゼルス周辺地域は、数年にわたる深刻な干ばつの後、2022年から2023年の冬にかけて記録的な洪水を経験し、植生が増加していました。2024年の記録的な猛暑につづく2025年の雨季は乾燥状態ではじまったことで、乾いた植生が一連の破壊的な山火事を悪化させたというのです。
Nature Reviews Earth & Environmentに発表された論文は、人為的な温暖化に伴う水文気候の変動性についてレビューしました。
水文気候の急変hydroclimate volatilityは、水文気候の変動性 — ローカルな基準に対して湿潤から乾燥、または乾燥から湿潤の状態への、極めて頻繁で突然の遷移を指します。水収支の観点から見ると、そのような極端な状況は「供給過剰」(つまり、大雨によって水が過剰になること)と「供給不足」または「過剰需要」(つまり、降水量が少ないまたは高い蒸発散によって水が不足すること)が入れ替わる状態として捉えることができます。
温暖化は、大気の水蒸気保持力の上昇と潜在的な蒸発需要の増加を通じて降水量と蒸散量の極端な変動をもたらし、水文気候の変動性を増加させることが予想されています。実際、水文気候の変動性の増加は、湿潤状態と乾燥状態の急激な変動に関連する危険(洪水、山火事、地滑り、病気の発生)を増幅させ、人間の健康や公共の安全、食料と水の安全保障、インフラに対する脅威をもたらしています。干ばつや洪水が単独に発生するときよりも、水文気候の変動の影響は、物理的な大きさを増加させるだけでなく、地理的に広範な地域に及ぶ可能性があります。
干ばつと洪水リスクの共同管理に向け、水管理のシフトを加速させる可能性があります。将来の水文気候の変動性の軌道を理解するためには、大規模な気候モデルシミュレーション、高解像度モデル、そして新たな機械学習手法を用いて地域的および全球的な強制力に対する大気循環の応答や陸–海–大気のフィードバックに関する研究を推進する必要があります。
(参考文献)
Swain, D.L., Prein, A.F., Abatzoglou, J.T. et al. Hydroclimate volatility on a warming Earth. Nat Rev Earth Environ 6, 35–50 (2025). doi.org/10.1038/s43017-024-00624-z , www.nature.com/articles/s43017-024-00624-z
(文責:情報プログラム 飯山みゆき)