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750. タイに自生するサトウキビ近縁遺伝資源エリアンサスのデータベースを公開
750. タイに自生するサトウキビ近縁遺伝資源エリアンサスのデータベースを公開
エリアンサス(Erianthus spp.)は、C4型光合成*を行う熱帯原産のイネ科多年生草本で、サトウキビの近縁遺伝資源です。エリアンサスは、バイオマス生産性が高く、不良な環境への適応力が優れることから、サトウキビ改良の重要な育種素材として注目されています。また、エリアンサスの高いバイオマス生産性に注目し、エリアンサス自体をバイオマス作物として燃料や電力生産、バイオエタノール生産、パルプ生産などに利用する取り組みも進められています(アジアモンスーン地域の生産力向上と持続性の両立に資する技術カタログ Ver.1.0、p. 21)。しかし、その特性に関する公開情報は世界的にも少なく、利用されている遺伝資源も極わずかでした。
国際農林水産業研究センター(国際農研)の熱帯作物資源プロジェクトでは、タイ国コンケン畑作物研究センターとの共同研究の中で、エリアンサス遺伝資源のサトウキビ育種への利用やバイオマス作物としての利用に向けた研究を実施しています。この度、国際農研とタイ国コンケン畑作物研究センターが共同で収集した、タイに自生するエリアンサス遺伝資源の形態特性や農業特性に関するデータベースを公開しました。本データベースを公開することで、タイやその他の国々におけるサトウキビ育種や研究、バイオマス利活用におけるエリアンサスの利用が促進され、世界の食料やエネルギーの増産に貢献することを期待しています。
エリアンサス遺伝資源・データベース
https://www.jircas.go.jp/ja/database/erianthus
* C4型光合成(C4がたこうごうせい)(Wikipedia): 光合成の過程で一般のCO2還元回路であるカルビン・ベンソン回路の他にCO2濃縮のためのC4経路を持つ光合成の一形態である。C4型光合成を行なう植物をC4植物と言い、維管束鞘細胞にも発達した葉緑体が存在するのが特徴である。これに対してカルビン・ベンソン回路しか持たない植物をC3植物という。C3植物は高温や乾燥などの気孔が閉じがちになる条件下ではCO2を集めにくくなるが、C4植物はそうした条件を回避して気孔を開け、CO2を固定しておくことが可能である。高温や乾燥、低CO2、貧窒素土壌と言った、植物には苛酷な気候下に対応するための生理的な適応であると考えられる。乾燥などの悪条件がなく、気孔を閉じておく利点が特にない環境では、CO2の固定のためにC3植物に比べて余分のエネルギーが必要になる。したがってそのような環境にはあまり適さない一方で、乾燥した草原や、畑の作物としては望ましい性質であると言える。作物ではトウモロコシや雑穀類がC4植物であり、イネやコムギといった主要作物はC3植物である。他方で、熱帯で農業に甚大な被害をもたらす雑草の中には、作物よりよく環境に適応したC4植物が含まれている。
(文責:熱帯・島嶼研究拠点 寺島義文)