タイ国で収集したエリアンサス属植物遺伝資源の特性評価と分類

国名
タイ
要約

タイ国で収集したエリアンサス属植物の遺伝資源は、形態や開花期、乾物生産等の農業特性において多様な変異を示す。これらは、Erianthus procerusおよびE. arundinaceus の2種を含み、E. arundinaceus についてはさらに3つの類型に分類できる。

背景・ねらい

世界の食糧・エネルギー需給逼迫の緩和には、既存の食料作物の生産が困難な地域において、食料とエネルギーの同時的増産を可能とする糖質・繊維質作物の開発が必要である。サトウキビの近縁属植物であるエリアンサス属植物は、少雨等の厳しい自然環境下への適応性が高いことが知られており、サトウキビ改良等の育種素材として世界的に注目されている。国際農林水産業研究センター(JIRCAS)は1997年から2010年までタイ農業局コンケン畑作物研究センター(KKFCRC)と共同で、タイ全土を対象にエリアンサス属遺伝資源の収集と保存を実施してきた。今後のエリアンサスの利用促進には特性評価と遺伝的多様性の分析が必要であるが、その整備は進んでいない。そこで、KKFCRCに保存しているタイ国エリアンサス遺伝資源の特性評価と分類を実施する。

成果の内容・特徴

  1. 収集した遺伝資源は、葉梢の毛群やロウ質物、芽のサイズや根基数等の形態特性や開花期、染色体数、生育環境等から2種(Erianthus procerusおよびE. arundinaceus)に分類される。E. arundinaceusについてはさらに3つの類型に分類される(図1)。
  2. E. procerusはタイ北部から東北部、E. arundinaceusの類型Iはタイ中部以北(インドシナ半島)、類型IIはタイ南部(マレー半島)、類型IIIは中西部や北部、東北部に分布する(図1)。
  3. E. arundinaceusの類型Ⅲは開花期が10~11月と早く、E. procerusは12~1月と遅い。E. arundinaceusの類型Ⅰ、類型Ⅱのはその中間である。(図1) 。
  4. 保存中の系統にはE. procerusE. arundinaceusの類型Iが多く、類型IIや類型IIIに属する系統は少ない(図1)。
  5. E. arundinaceusには、干ばつが厳しい東北タイにおいて対照として供試したネピアグラスやサトウキビ品種より多回株出し栽培での乾物生産力が優れる系統がある(図2)。

成果の活用面・留意点

  1. タイ国におけるエリアンサス属植物の収集・保存および育種利用促進に際して基礎となる情報である。
  2. 保存数が少ないE. arundinaceusの類型IIや類型IIIは、今後重点的に収集する必要がある。
  3. 乾物収量の成績(図2)は、小面積での栽培試験の結果である。
  4. タイ国内のみならず、世界的な視点でエリアンサスの分類を整備していく必要がある。

具体的データ

  1.  

    図1 タイ国内におけるE. procerus, E. arudinaceus 3類型の生態写真、分布図、染色体
    図1 タイ国内におけるE. procerus, E. arudinaceus 3類型の生態写真、分布図、染色
  2. 表1 E. procerus およびE. arundinaceus の3 類型(類型I、II、III)の特性

     
    表1 E. procerus およびE. arundinaceus の3 類型(類型I、II、III)の特性
  3.  

    図 2 保存中のエリアンサス系統の株出し 3 回目での乾物収量
    図 2 保存中のエリアンサス系統の株出し 3 回目での乾物収量
    注)2006 年5 月に植え付け、毎年冬季(12月から2 月)に収穫。1 区1 畦6 m(株間1.2 m、5 株植え)、畦幅1.8 m、2 反復。ネピアグラス、NCo310 は4 反復。KK3は反復無し。試験はKKFCRC 圃場にて実施した。NCo310 は株出し2 回目以降萌芽しなかった。
Affiliation

国際農研 熱帯・島嶼研究拠点

分類

研究B

予算区分
交付金〔サトウキビ多用途化〕
研究課題

サトウキビ多用途化のための育種素材開発

研究期間

2002~2010年度

研究担当者

田金 秀一郎 ( 九州大学 )

杉本 ( 熱帯・島嶼研究拠点 )

科研費研究者番号: 30414840

寺島 義文 ( 熱帯・島嶼研究拠点 )

科研費研究者番号: 90414846
見える化ID: 001787

江川 宜伸 ( 熱帯・島嶼研究拠点 )

伊敷 弘俊 ( 熱帯・島嶼研究拠点 )

見える化ID: 001730

佐藤 光徳 ( 鹿児島県農業開発総合センター )

伊禮 ( 沖縄県農業研究センター )

PONRAGDEE Werapon ( タイ農業局コンケン畑作物研究センター )

SANSAYAWICHAI Taksina ( タイ農業局コンケン畑作物研究センター )

TIPPAYAWAT Amarawan ( タイ農業局コンケン畑作物研究センター )

ほか
発表論文等

Tagane et al. (2011) Cytological study of Erianthus procerus and E. arundinaceus (Gramineae) in Thailand. Cytologia (in printing).

日本語PDF

2010_seikajouhou_A4_ja_Part20.pdf316.62 KB

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