タイに自生するエリアンサス遺伝資源の多回株出し栽培における農業形質情報

関連プロジェクト
熱帯作物資源
国名
タイ
要約
タイに自生するエリアンサス遺伝資源は、多回株出し栽培における農業形質に大きな遺伝的多様性を有する。多回株出し栽培での農業形質情報や生産性等が優れる育種素材は、タイにおけるサトウキビの育種やエリアンサスの新規資源作物としての育種で利用できる。

背景・ねらい

サトウキビ等で実施されている株出し栽培(地上部の茎を収穫した後に、土壌中に残る株から再生する茎を栽培して収穫する作型)は、植え付け作業が不要であるためエネルギー投入量が少なく、経営及び環境保全の面からも重要な作型である。サトウキビの近縁属遺伝資源であるエリアンサス(Erianthus spp.)は、株出し栽培を複数回繰り返す多回株出し栽培におけるバイオマス生産性が高く、干ばつ等の不良な環境への適応性に優れる。そのため、気候変動下での多回株出し栽培における生産性向上が課題となるサトウキビの育種素材やバイオマス生産に向けた新しい資源作物としての利用が期待されている。同遺伝資源の効果的な育種利用に向けて、多回株出し栽培における農業形質の遺伝的多様性に関する科学的な情報は重要であるが、世界的に報告は行われていない。本研究では、国際農研とタイ農業局コンケン畑作物研究センターがタイ各地から収集した多様なE. arundinaceusE. procerusの遺伝資源について、効果的な育種利用の基盤となる、多回株出し栽培における農業形質の遺伝的多様性に関する情報を整備し、育種素材を選定する。

 

成果の内容・特徴

  1. タイで収集したエリアンサス遺伝資源130系統(E. arundinaceus:98系統、E. procerus:32系統)には、多回株出し栽培におけるバイオマス生産性等に関連する農業形質に多様な遺伝的変異が存在し、サトウキビやネピアグラスより株当たり乾物重が大きい系統が存在する(図1)。
  2. 株出し栽培を多数回繰り返す上で重要となる多回株出し指数(株出し3回目/株出し1回目)にも大きな多様性があり、株出し栽培を繰り返した場合でも株当たり乾物重や茎数等が低下しにくい系統が存在する(図1)。
  3. 株あたり乾物重は、茎数との相関が強いが、1茎重や茎径、ブリックス(可溶性固形分濃度)との間には強い相関関係がないことから、多回株出し栽培におけるバイオマス生産性が高く、ブリックス等の各形質の特性が優れる育種素材の選定が可能である(表1)。
  4. E. arundinaceusおよびE. procerus遺伝資源から選定した多回株出し栽培における株当たり乾物重や多回株出し指数等が大きい系統は、育種素材として有望である(図2)。

 

成果の活用面・留意点

  1. 本研究で取得した多回株出し栽培における農業形質情報や選定した育種素材は、タイにおけるサトウキビの育種やエリアンサスの新規資源作物としての育種で利用できる。
  2. 農業形質情報は、タイや世界のエリアンサス遺伝資源の利用促進に向けた基盤情報として、国際農研ホームページ(https://www.jircas.go.jp/ja/database)にてデータベースとして公開する。
  3. 本研究で取得した農業形質情報は、多様な遺伝資源を複数年にわたり評価するために、コンケン畑作物研究センター内の圃場において、1区1株、3反復で評価した結果であることに留意が必要である。

 

具体的データ

  1. Fig1

    図1 タイに自生するエリアンサス遺伝資源の農業形質の多様性
    注)タイ国コンケン畑作物研究センターにおいて、1区1株(畦幅2m×株間2m)、3反復で2011年6月に植付け、2012年~2015年の2月末~3月上旬に収穫(新植から株出し3回目)したデータの平均値を示す。多回株出し指数は、株出し1回目に対する株出し3回目の比(括弧内はその範囲)であり、値が大きいほど株出し栽培を繰り返した場合の減少程度が低いことを示す。サトウキビ品種は、国際農研とコンケン畑作物研究センターが育成した株出し性が優れる多収性サトウキビ品種TPJ03-452、ネピアグラス品種は、東北タイで利用されているKing Napierのデータを示す。ブリックスは可溶性固形分濃度を示し、砂糖生産を行うサトウキビの育種素材選定で重要な形質となる。

     

  2. 表1 株当たり乾物重と他の農業形質との遺伝相関係数
    Table1

    注)相関係数は各形質の4作平均値を利用して算出した。**は1%水準、*は5%水準で有意、n.s.は有意でないことを示す。

     

  3. Fig2

    図2 選定した株当たり乾物重が大きい育種素材
    注)コンケン畑作物研究センターにて2013年3月に撮影。
    写真は左から、E. arundinaceusのThE03-7、ThE10-6、E. procerusのThE99-133を示す。

     

     

    図表はTerajima et al. (2022) より改変(転載・改変許諾済)

     

分類

研究

研究プロジェクト
プログラム名

情報

農産物安定生産

食料安定生産

予算区分

交付金

研究期間

2011~2021年度

研究担当者

寺島 義文 ( 熱帯・島嶼研究拠点 )

科研費研究者番号: 90414846
見える化ID: 001787

杉本 ( 熱帯・島嶼研究拠点 )

科研費研究者番号: 30414840

高木 洋子 ( 熱帯・島嶼研究拠点 )

PONRAGDEE Werapon ( タイ農業局コンケン畑作物研究センター )

SANSAYAWICHAI Taksina ( タイ農業局コンケン畑作物研究センター )

TIPPAYAWAT Amarawan ( タイ農業局コンケン畑作物研究センター )

Chanachai Sangdaun ( タイ農業局コンケン畑作物研究センター )

蝦名 真澄 ( 農研機構 畜産研究部門 )

科研費研究者番号: 80355122
見える化ID: 000940

久喜 ( 筑波大学 )

科研費研究者番号: 70251022

ほか
発表論文等

Terajima et al. (2022) Crop Science, 62: 1531–1549
https://doi.org/10.1002/csc2.20697

日本語PDF

2021_C01_ja.pdf349.85 KB

English PDF

2021_C01_en.pdf293.92 KB

ポスターPDF

2021_C01_poster.pdf285.61 KB

※ 研究担当者の所属は、研究実施当時のものです。

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