日本で収集されたエリアンサスの遺伝学的特性の解明とSSRマーカーの開発
日本で収集されたエリアンサスは、染色体数に違いはないものの、温帯地域(九州以北)で収集された遺伝資源のDNA含量は、沖縄を含む熱帯・亜熱帯地域で収集された遺伝資源のそれより有意に高い。これらの遺伝資源は、SSRマーカーに基づく遺伝子型から、異なる分類群を形成する。
背景・ねらい
エリアンサス(Erianthus arundinaceus)は南・東南アジアの熱帯・亜熱帯地域を中心に分布するC4型のイネ科永年性草類であり、属間雑種育種法によるサトウキビ改良のための遺伝資源として、また、草本系バイオ燃料の原料として注目されている。日本で収集されたエリアンサスは、最も高緯度地域に適応したエリアンサス遺伝資源として世界的にも注目されているが、それらの遺伝学的特性に関する研究蓄積は少ない。サトウキビやエリアンサスの遺伝・育種研究に資するため、これまで収集されたエリアンサスの遺伝学的特性を明らかにするとともに、SSRマーカーを開発する。
成果の内容・特徴
- DNA含量には収集地によって差が認められ、温帯地域(九州以北)で収集されたエリアンサス遺伝資源におけるDNA含量は、熱帯・亜熱帯地域(沖縄およびインドネシア)で収集されたエリアンサス遺伝資源のそれより有意に高い値を示す(図1、2)。
- 温帯地域で収集されたJW630と亜熱帯地域で収集されたJW4との間に染色体数の違いはなく、2n=60である(図1)。
- エリアンサスから開発された41種類のSSRマーカーのうち、39種類はエリアンサス遺伝資源において明瞭な増幅産物を生じ、これらの遺伝子型データから、日本で収集された遺伝資源26系統は、インドネシアで収集された3系統とは異なる分類群を形成する(図2)。
- 日本で収集されたエリアンサス遺伝資源は温帯地域で収集されたJW630を含むグループ(グループIa)と亜熱帯地域で収集されたJW4を含むグループ(グループIb)に細分化される(図2)。
- エリアンサス由来の39種類のSSRマーカーのうち、31種類はサッカラムコンプレックス(Saccharum complex)を構成する他の属(サトウキビ属、ススキ属およびナレンガ属)に適用可能である(図3)。
成果の活用面・留意点
- 本成果は、国内遺伝資源を基軸とした新たなエリアンサス品種育成における親系統選定のための基礎情報として利用できる。
- 他属に適用性のあるSSRマーカーは、サトウキビ×エリアンサス等の属間雑種識別マーカーとしての利用が可能である。
- 供試したエリアンサスは、国内遺伝資源から育成された品種・系統を含む。
- 収集地域間におけるDNA含量の違いは、本種の地理的拡散や生態的適応にともなうゲノム構造の変化に起因する可能性があり、今後詳細に解析する必要がある。
具体的データ
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赤および青で示したピークは、それぞれ内部標準および各系統のDNA相対量を示す。 -
系統樹は、39種類のSSRマーカーにもとづく遺伝子型データから算出した各系統間の類似係数(Jaccard’s coefficient)を用いてNJ(Neighbor-joining)法により作成した。分枝上に付した数値は、ブートストラップ確率を示す。各分類群のDNA含量(pg/2C±標準偏差)における異なる英文字間は、Tukey’s HSD検定により有意差(p<0.001)があることを示す。 -
S: サトウキビ属(7種)、M: ススキ属(5系統)、N: ナレンガ属(1系統)、+:増幅あり、-:増幅なし
- Affiliation
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国際農研 熱帯・島嶼研究拠点
- 分類
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研究
- 研究プロジェクト
- プログラム名
- 予算区分
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交付金 » 高バイオマス資源作物
- 研究期間
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2017年度(2011~2020年度)
- 研究担当者
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霍田 真一 ( 熱帯・島嶼研究拠点 )
寺島 義文 ( 熱帯・島嶼研究拠点 )
蝦名 真澄 ( 農研機構 畜産研究部門 )
小林 真 ( 農研機構 畜産研究部門 )
見える化ID: 000933高橋 亘 ( 農研機構 畜産研究部門 )
- ほか
- 発表論文等
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Tsuruta S et al. (2017) Mol Breed, 37
Tsuruta S et al. (2017) Acta Physiol Plant, 39
- 日本語PDF
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- ポスターPDF
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