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737. 極端気象災害対策~誰も取り残さないために~

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737. 極端気象災害対策~誰も取り残さないために~


気候変動は極端な気候現象(極端気象:extreme events)の頻度と規模を拡大させ、地域経済、人々の生活、さらに自然環境に多大な影響を与えています。

水循環の極端気象である洪水と干ばつは、水文学的循環の対極に位置づけられ、降水の地域的・時間的分布特性は異なりますが、互いに影響しあい、しばし連鎖的な被害をもたらします。例えば、干ばつは土壌劣化や表面土壌の貯水・浸透キャパシティの低下を通じ、雨水の流出による洪水リスクを高めます。過去に比べ(1982-2001)、この20年間のトレンドは、アフリカにおける洪水・干ばつの発生頻度の増加傾向を示しますが、洪水(+180%)の頻度が干ばつ(+30%)の頻度よりも多く報告されました。一方、一つまたは二つの集水域に限定され突発的に発生する水害と比べて干ばつはゆっくり進む広範なプロセスのため、影響を及ぼす範囲も人数も大きく長期にわたる傾向にあります。ここ数年、アフリカにおいて洪水が影響を及ぼしたのは、2020年の700万人がピークでした。対して、干ばつは、2011年に2400万人、2015年に3000万人、2021 年に 3,300 万人、と、2002 年から 2021 年までの10年間に干ばつの影響を受けた人々は 2 億 9,500 万人に及び、同時期に洪水被害を受けた 5,800 万人の約 5 倍となっています。

一方、近年、鉄砲水(flash-flood)といった水害が世界各地で発生し、多くの人が命と生活環境が奪われています。NASAの定義によると、鉄砲水とは、河川沿いや低地において急激な水位上昇が起こることを指します。鉄砲水は、しばし短期間に大量かつ極めて強い強度による降雨が発生してから6時間内に起きるとされています。

とくに、鉄砲水は、干ばつなど乾燥状態にさらされた土壌において大きな被害をもたらします。Nature誌は、世界の乾燥地域において、近年、鉄砲水被害の脅威が増していることについて論考を発表しました。昨年、パキスタンで人口の約2/3 が広範囲にわたる鉄砲水によって影響を受け、1,500 人以上が死亡、約3,300 万人が家を失いました。アフリカやUAE、イラン、サウジアラビア、カタール、オマーン、イエメンの一部でも、鉄砲水の発生によりおよそ2,000人が犠牲になったことが報告されています。脆弱な社会ほど被災度は深刻で2000年以降の鉄砲水被災者では低中所得国の人々が全体の87%、亡くなった人は全体の97%を占めています。貧弱な社会層が大きい発展途上国はこれまでよりも多面的アプローチと包括的に取り組むことが求められています。

論稿は、もともと水に恵まれた地域よりも乾燥地域において鉄砲水の被害が大きくなる理由として、干からびた土壌ほど、水を吸収するのではなくはじき返すことを指摘しました。湿潤地域における洪水は長時間にわたる降雨のあとに起きるのに対し、乾燥地においてば、水位の上昇は1時間当たり10mm程度の雨でも生じます。急激な雨水の流出は土壌浸食をもたらし、とりわけ山岳地帯ではガリーを通じて傾斜に沿って水が排出されることで大きな被害をもたらします。他方、乾燥地の住民はこれまで鉄砲水への備えがなく、むしろ干ばつを懸念して氾濫原に居住する傾向があり、ダム等の設置による対策に重きを置いてきませんでした。2000年以来、乾燥地域で発生した鉄砲水は世界全体の致死的な鉄砲水の47%であったにもかかわらず、関連する死者の74%を占めます。また、これらの洪水の多く(87%)と関連死(97%)が低・中所得国に集中しています。

論稿は、乾燥地域における鉄砲水被害から住民の暮らし守るために、研究者、活動家、政策立案者に対し、次の6つの研究プライオリティを提案しました。

1.    データ収集とリスクマッピング:気象や水分観測、地形、被災資産の記録等データセットの確保。
2.    早期警戒システムの開発:早期警戒システムの開発導入支援。
3.    突然の洪水発生に対するレジリエンス強化:ダムや堤防、ため池洪水調節の施設整備。
4.    長期的な移転計画:災害リスクの高い場所からの住民の移転。
5.    災害支援に止まらない資金提供:国家保険制度など災害保険完備と加入支援。
6.    住民の意識と知識の改革と災害対応力の強化:災害リスク、予防策や避難方法についての理解促進。


あらゆる気象、地理条件、社会経済状況が絡み合う現在の世界ですが、誰一人取り残さない~leave no one behind~ために努力し続けなければなりません。


(参考文献)
Yin J et al. Flash floods: why are more of them devastating the world’s driest regions? Nature, 07 March 2023 https://www.nature.com/articles/d41586-023-00626-9

Centre for Research on the Epidemiology of Disasters CRED, The interplay of drought-flood extreme events in Africa over the last twenty years (2002-2021), Cred Crunch, Issue No.69, December 2022. https://cred.be/sites/default/files/CredCrunch69.pdf

(情報プログラム トモルソロンゴ、飯山みゆき)
 

 

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