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726. 果物と人と地球のいい関係とは? ~熱帯・亜熱帯は果物の宝庫~

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726. 果物と人と地球のいい関係とは?~熱帯・亜熱帯は果物の宝庫~

本日の記事は、広報JIRCAS掲載記事を再編し、国際農研の若手研究者の視点で、果物と人と地球のよい関係を築くための研究について紹介します。

 


東南アジアでは果物は食事の一部

皆さんは果物をどのくらいの頻度で食べますか?日本のスーパーマーケットには季節の果物やきれいなカットフルーツが並んでいて華やかです。日本人にとって果物は、「食後のデザートとしてたまに食べるもの」あるいは「贈答用の高級品」といったイメージが強いかもしれません。ところがタイやラオスなど東南アジアの人々にとって、果物へのイメージはだいぶ違うようです。年間を通して市場にはさまざまな種類の果物が手ごろな価格で並び、果物は「健康のため毎日食べる食事の一部」になっています。各地でいろいろな果物が栽培されていて、あれもこれも、いつでも新鮮な果物を手軽に食べることができます。


抗酸化物質が豊富な果物といえば……

さあ、ここからは果物の栄養についての話です。果物にはエネルギー源となる糖分だけでなく、人が生きていくうえで欠かせないミネラルやビタミン類、そして健康を維持するさまざまな機能性成分が含まれています。熱帯の果物にはどのような栄養が含まれているのかを簡単に紹介していきます。日本人にはなじみのない果物もたくさん出てくると思います。

まずは、抗酸化物質が豊富な果物から。抗酸化物質として有名なポリフェノール(アントシアニン・タンニンなど)やカロテノイドは、皆さんも聞いたことがあると思います。マンゴーやパッションフルーツは、ビタミン・カロテノイドが豊富です。また、日本人にはなじみがありませんが、紫色がきれいな“熱帯のブドウ”ジャボチカバを食べれば、アントシアニンが摂れます。ジャガイモのような見た目で干し柿の風味があるサポジラは、柿と同じでタンニンを多く含んでいます。


タネが主役級の活躍をする果物も

次は、タネにも注目です。果物は、果肉を食べるものだけではありません。世界最大級の果物として有名なパラミツ(ジャックフルーツ)は果肉も種子も美味しく食べることができ、タンパク質が豊富です。カシューやマカダミアなどのナッツ類、それからアボカドは、不飽和脂肪酸を多く含みます。

ちょっと果物のイメージからは遠いかもしれませんが、私たち日本人が普段食べているチョコレートや、料理に使う香辛料の胡椒は、それぞれカカオ、コショウという熱帯果樹の果実を加工したものです。

さらに、薬として利用されるタネもあります。チェリモヤ・バンレイシ・アテモヤを含むバンレイシ科の果樹の種子からは、抗がん作用のある薬用成分が見つかっています。また、レイシ(ライチ)の仲間リュウガンの乾燥果肉は、昔から漢方薬として利用されています。


果物で健康になろう!

このように熱帯・亜熱帯の果樹は、驚くほど幅広く利用されていることがお分かりいただけたと思います。さまざまな形で日常の食生活に取り入れることで、美味しく楽しく栄養を摂ることができ、健康を保つのにも役立ちます。

「果物が苦手」という人でも、食べ方も種類も豊富な熱帯・亜熱帯の果物の中から「これなら好き!」というものが見つかるかもしれません。日本では、ひと昔前は“トロピカルフルーツ”というとまだまだ珍しかったものですが、最近ではアボカドやパッションフルーツなどの亜熱帯果樹、マンゴーやパインアップル、ときにはドリアンやマンゴスチンなどの熱帯果樹まで、さまざまなトロピカルフルーツを買えるようになってきました。

2021年は、国連が定めた国際果実野菜年(International Year of Fruits and Vegetables: IYFV2021)でした。「果物で健康になろう」という考え方が世界中に広がっています。


なぜマンゴーは実がつきにくい?

私たちは青果コーナーに並ぶきれいな果物を買って食べていますが、実際に果樹を栽培してみると、果実の大きさも、色も、形も、味もバラバラになりやすく、なかなか品質が揃ったものはできません。店頭に並ぶ果物がいかに「選ばれしものたち」であるのかを痛感します。

「花が咲かない」「実がつかない」なんてこともしばしば起こります。たとえば、マンゴーは実がつきにくいことで有名です。数千から1万個を超える小さな花が集まった“総状花序”が枝の先端にできますが、その中で果実になるのは多くても数個しかありません。これは、花が多く咲き過ぎて養分を奪い合っていることが一因だと考えられます。そこで、花序の中の花芽を部分的に取り除き、花の数を減らす摘蕾という作業をおこなうと、安定して果実がつくようになることが分かってきました(Matsuda & Ogata, 2021)。これを現場で使える技術にできるよう、私たちは研究を進めています。


果樹の成長にとってストレスは大敵!

果樹が育つ農園には、高温や低温、乾燥や過湿、強光や日照不足などの環境ストレスがあふれています。安定して果実を生産するには、これらの強い環境ストレスから果樹を守らなければなりません。

とくに、気候変動の影響で問題となっているのが高温です。しかも、果樹の種類によって高温の害から守るべき部分が違うので複雑です。例えば、熱帯高地が原産のパッションフルーツとチェリモヤについて説明します。熱帯高地の気候は年間を通して涼しいため、どちらも気温が30℃を超えると花が咲いても実がつきにくくなります。ただし、チェリモヤの方は雌しべよりも雄しべの方が高温に弱く、受粉のときに花粉をできるだけ高温にさらさないことが重要です。一方、パッションフルーツはその逆で、雄しべは雌しべよりも高温に強く、花粉は30℃以上の気温でむしろよく発芽することが分かりました(Matsuda & Ogata, 2020)。このように受粉ひとつとっても、環境への生理反応は樹種によって違っていて、しかも同じ樹種でも品種によって違いがあります。


熱帯果樹の遺伝資源を未来へ

ここまで、マンゴーの開花、パッションフルーツとチェリモヤの温度について例を挙げて紹介しましたが、ひとつひとつの果物についてこのようなしくみを解き明かし、情報を蓄積していけば、果樹の栽培に役立ちます。

地球環境は絶えず変化しています。変化していく環境へうまく対応していくためには、さまざまな生理反応を見せる多種多様な遺伝資源を調べ、その中から役立つものを利活用していくことが必要になります。

石垣島の熱帯・島嶼研究拠点には40種以上、数百点に及ぶ熱帯果樹の遺伝資源があります。現在や近い将来の問題を解決する研究に取り組みながら、未来の研究者たちによる問題解決にもつなげられるよう、今ある遺伝資源を大切に維持していくことも私たち研究者の重要な仕事です。

 


本文は、広報JIRCAS掲載記事を再掲(一部変更あり)しています。
https://www.jircas.go.jp/ja/publication/jircas/11

 


(参考文献)
Matsuda, H. and T. Ogata 2020. Varietal Differences in Thermal Response of Passion Fruit Pollen Germination. Tropical Agriculture and Development 64: 90–96.

Matsuda, H. and T. Ogata 2021. Effects of Floral Disbudding on ‘Irwin’ Mango Flowering and Fruit Set. Tropical Agriculture and Development 65: 132–137.

 

(文責:熱帯・島嶼研究拠点 松田大志)


 

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