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558. 国連食糧農業機関(FAO)食料見通し ―燃料・肥料等の生産・価格への波及効果

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558. 国連食糧農業機関(FAO)食料見通し ―燃料・肥料等の生産・価格への波及効果

6月9日に公表された国連食糧農業機関(FAO)による食料見通しは、高騰する投入財価格、気候、ウクライナでの戦争に起因する市場不確実性等の要因により、食料市場が逼迫し、食料輸入コストが歴史的に高くなる可能性を指摘しました。食料見通しは、主要な商品作物ごとの詳細な需給動向について分析を提供するほか、ウクライナ戦争の世界市場への影響、および、燃料・肥料等の生産・価格への波及効果、について特集ページを割いています。とくに投入財価格の高騰は、既に歴史的に高い水準にある食料価格高を長引かせ、輸入国に二重の負荷をもたらしかねないと警鐘をならしました。

特集ページは、FAOの世界投入財価格指標(Global Input Price Index: GIPI)に言及しつつ、投入財の世界市場動向や、膨張する輸入コスト負担を分析しています。GIPIが食料価格よりも速いペースで上昇する傾向の中(双方とも史上最高値をつけている)、農民が生産をためらうことで、食料市場における価格高騰が長引く可能性を指摘しました。

商業的農業分野は、エネルギー集約的で化石燃料に大きく依存しています。今日の混乱のもとは、エネルギー価格が上昇し始めた2021年に遡ります。エネルギー価格の上昇で、主に天然ガスから製造される窒素肥料の費用が上昇します。窒素肥料は作物の収量増加にとって最も重要な農業投入財です。尿素や 硝酸アンモニウムの形態での窒素 N価格の上昇は、2021年末までに史上最高値に達していました。この勢いは2022年に入っても続き、その他の重要な肥料であるリンPやカリウムKの価格も上昇していきました。世界最大の肥料輸出国であるロシアが、ウクライナ侵攻後、世界市場への供給を絞りはじめ、輸出規制は2023・24年シーズンまで延長されると見込まれています。 

この意味するところは、現在の戦争が収束しなければ、しばらく世界の食料(作物・家畜)生産者の利益マージンが圧縮されるということです。燃料・肥料だけでなく。種子・飼料・農薬の費用も上昇すると、農家はこれらの使用を控えるか、これらの使用が少なくて済む作物の作付へとシフトしていくかもしれません。生産性の低下と輸出食料(とくに小麦、コメ、メイズ)の輸出が抑制されることで、国際市場を通じ、主食作物の輸入依存度の高い国に大きな打撃を与える可能性もあります。投入財価格・食料価格ともに安定する新たな均衡に向かうことが望まれます。


(参考文献)
FAO. 2022. Food Outlook – Biannual Report on Global Food Markets. Rome. https://doi.org/10.4060/cb9427en

(文責:情報プログラム 飯山みゆき)

 

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