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447. 国際農研-CCFS研究会ワークショップ 開催報告

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447. 国際農研-CCFS研究会ワークショップ 開催報告


2021年12月17日(金)、国際農研-CCFS研究会主催、農業・食品産業技術総合研究機構(農研機構)共催の下、「気候変動とコロナ禍の食料需給への影響―不確実性下のフードセキュリティ―」がオンラインで開催されました。今回のワークショップでは、気候変動とコロナ禍が食料と栄養の供給に与える影響に焦点を当て、これまで国際農研および科研費で実施されてきたプロジェクトを通して得られた成果が報告されました。

まず、開会挨拶では、国際農研の小山修理事長から、食料需給分析分野の主なテーマや方法論、気候変動とコロナ禍という世界規模の脅威について分析することの難しさが説明されるとともに、システム全体を様々な角度から分析することの重要性が指摘されました。

次に、国連食糧農業機関(FAO)アジア太平洋地域事務所のDavid Dawe上級エコノミスト・戦略政策アドバイザーが特別講演を行い、アジア・太平洋地域では、2020年においても農業部門が成長を続ける国が多かったこと、世界的な食料価格急騰の一方で国内食料価格の上昇は限定的であったことなどが示されました。一方で、2020年における栄養不足人口割合の上昇や食料確保に不安を抱える人々の増加傾向を示し、COVID-19の感染拡大抑制や食料供給網における物理的な距離の確保の重要性などが指摘されました。

セッション1「気候変動への適応」では、まず、農研機構の飯泉仁之直上級研究員から、気候変動が生じない場合と比べ、世界平均気温が2℃上昇した際に主要穀物の移植日の移動等の簡易な対策を講じたとき、それにかかる費用は610億ドル、収量減によりもたらされる被害は190億ドルに上るという試算結果が示されました。次に、東京大学大学院農学生命科学研究科の中谷朋昭准教授から、今期の気候変数が同期の経済変数に影響を及ぼす相互依存的なモデルでは、気候変数が弱外生でない場合、最小二乗推定した係数は真の値とは一致しないことが、シミュレーション実験の結果等を用いて説明されました。北海道大学大学院農学研究院の澤内大輔講師は、アジア諸国のコメの1人当たり供給量の分散を、1人当たり生産・貿易・在庫変動の分散及び共分散に分解した結果を示し、在庫変動や貿易による国内供給の安定化への寄与を定量的に示しました。

セッション2「気候変動とコロナ禍の影響」では、まず国際農研の草野栄一主任研究員が、既存の大型世界食料需給モデルは多量栄養素の供給量を一定程度説明できる一方、ビタミンAやビタミンCなどの供給量を説明するには不十分であることを示すとともに、国や地域ごとに重要な栄養素や食品を見極めることの重要性を指摘しました。国際農研の古家淳社会科学領域長は、コロナ禍の下ではこれが発生しなかった場合と比べると、2030年代には牛肉、2050年代にはコメや生乳の1人当たり供給量が多くの地域で減少し、タンパク質や鉄の供給量減少につながるという世界食料需給モデルの試算結果を示しました。農林水産政策研究所の古橋元上席主任研究官とOECDの小泉達治農業政策分析官は、インディカ米とジャポニカ米の世界需給モデルを用いて2040年までの需給予測を行い、ジャポニカ米は主産国である中国において単収が降雨量の影響を受けやすく、国際価格の変動がインディカ米と比べて大きくなるという予測結果を示しました。

セッション3「パネルディスカッション」では、気候変動やコロナ禍の下で食料や栄養を確保するため、以下のような観点から対策について論じられました。

【気候変動下での食料・栄養確保】緩和策が食料需給に与える影響及び研究開発投資(小山氏);不平等な食料分配等の食料システムの不健全性や、温室効果ガス排出等農業による環境負荷(飯泉氏);食料システムの理解、特に食料・栄養摂取の実態把握(中谷氏);食料安定供給のための不確実性を考慮した在庫確保や、食料価格安定化(澤内氏)

【コロナ禍の下での食料・栄養確保】医療システムの改善や、食料供給網における物理的な距離の確保、失業者等の社会的保護、食料供給網の問題を解決するための官民連携、解放的な国際貿易(Dawe氏);短期的ショックに脆弱な乳幼児などへの栄養供給のための備え(草野氏);肉類の安定供給や栄養強化作物開発などのための研究開発投資(古家氏);経済の急回復や天候不良、急激に進む環境対策等、複合的な要因による農産物価格高騰を念頭に置いた、経済成長の維持と気候変動対策のバランス(古橋氏)

【共通する重要な論点】研究機関による情報収集・発信力の強化(飯泉氏);大きな影響を受ける弱者のことを考えるため、世界中がつながっていることを、説得力がある形で説明していくこと(小山氏)

国際農研の飯山みゆきプログラムディレクターは、複雑化・多様化する地球規模の課題や開発ニーズに対応する上でのシステム的な視点に基づく分析の重要性を指摘し、パネルディスカッションを総括しました。

最後に、農研機構の長谷川利拡グループ長から、気候変動とコロナ禍に共通する事項として、今後の社会の在り方を考える機会、社会弱者への影響の大きさ、連帯(solidarity)の重要性の3点が論じられるとともに、食料、水、エネルギー、健康の問題を一体的に捉えて連帯をもって不平等をなくしながら問題解決に当たる必要性と、情報発信・交換の重要性が指摘され、今回のイベントが締めくくられました。

(文責:社会科学領域 草野 栄一)