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343. 節水技術への適応を改善することにより、気候変動に対応するイネを育種する

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343. 節水技術への適応を改善することにより、気候変動に対応するイネを育種する

コメは、世界の人口のほぼ半数にとって主要な食料源であり、最も重要な食用作物の一つです(GRiSP 2013)。現在、世界のコメの90%はアジアで生産されていますが、コメの消費量は過去数十年の間にアフリカで特に増加しており、コメは世界の食料安全保障にとって非常に重要な、世界的作物となっています。

気候変動は、気温の上昇と水の利用可能性の低下を通じて、コメの生産にますます影響を与えると予想されています。他の作物とは異なり、水稲は水田からのメタン放出による温室効果ガス放出の主な原因です。したがって、気候変動への適応を可能にし、緩和にも貢献しうるイネの品種開発・栽培体系の開発は、世界の食料安全保障にとって極めて重要な課題です。より具体的には、(1)気候変動にレジリエントなイネの育種と同時に、(2)水田からのメタン排出を抑制する栽培技術の開発に合わせたイネの育種も必要になります。

2021年7月3日、国際農研 生産環境・畜産領域のMatthias Wissuwa主任研究員は、フィリピンにある国際農業研究機関の一つである国際稲研究所(IRRI)、ドイツのユーリッヒ研究センター(FZJ)の研究者と一緒に、遺伝育種学に関する国際誌であるTheoretical and Applied Genetics(理論的および応用遺伝学)に「Breeding rice for a changing climate by improving adaptations to water saving technologies」(節水技術への適応を改善することにより、気候変動に対応するイネを育種する)と題した総説をオンライン発表しました。

この総説では、完全に湛水(たんすい:水田に水を張ってため続けること)した条件下で水稲が栽培される期間を短縮し、それによって水利用の効率を改善し、メタン排出を削減する2つの節水技術に焦点を当てています。過去数十年にわたる稲作は、苗が苗床で育てられ、代かきの湛水土壌に移植される、継続的な湛水条件に適応した高収量イネ品種の開発に、主な焦点を合わせてきました。焼畑耕作を直播(ちょくはん、じかまき:地面に直接種をまいて育てる栽培方法)に移行するか(direct-seeded rice: DSR)、交互の湿潤と乾燥のように非湛水期間を導入すること(alternate wetting and drying: AWD)は、稲作で取り組む必要のある新たな課題を引き起こします。嫌気性(空気のない)条件下でも迅速で均一な発芽、苗の活力、雑草との競争力、根の可塑性、中程度の干ばつ耐性などの新しい適応形質を、現在のエリート稲品種に組み込む必要があります。この総説では、これらの形質に関わる遺伝子の発見、それらの遺伝子のDNAマーカーを活用した優良イネ系統の選抜やイネ集団の改良が、どの程度対処されているかについて、レビューされています。

国際農研では、国内外の研究機関と共同で、これらの形質の改良も含めた、レジリエントなイネの開発などに取り組んでいます。

(参考文献)

  • GRiSP (Global Rice Science Partnership). (2013). Rice almanac, 4th edition. Los Ba os (Philippines): International Rice Research Institute. 283 p.
  • Maria Cristina Heredia, Josefine Kant, M. Asaduzzaman Prodhan, Shalabh Dixit & Matthias Wissuwa (2021) Breeding rice for a changing climate by improving adaptations to water saving technologies. Theoretical and Applied Genetics https://link.springer.com/article/10.1007/s00122-021-03899-8
  • 新たな食料システムの構築を目指す生産性・持続性・頑強性向上技術の開発 https://www.jircas.go.jp/ja/program/prob

(文責:食料プログラムディレクター 中島一雄、生産環境・畜産領域 Matthias Wissuwa)

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