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271. フードシステムに関する前向きなビジョンと新しい栄養学

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今年は9月に国連食料システムサミット、12月に東京栄養サミットが開催される予定であり、とりわけフードシステムや栄養に注目が集まる年です。これに関連して最近Nature Food誌に掲載された論説を2つ紹介します。

まずはフードシステムに関する論文です(Steiner 2021)。 フードシステムは人類と地球の健康(human and planetary health)との両方を支えるものである必要があります。しかし、現在のグローバルフードシステムはどちらも満たしていません。新型コロナウイルス感染症のパンデミックでは皆がそのことを痛感しました。嘆くのは簡単ですが、嘆いていても前には進めません。世界のフードシステムの持続可能性は、新型コロナウイルスパンデミックから立ち直るための重要なテーマになりつつあります。著者は、今こそ、楽観的で、理にかなった、実行可能なビジョンとイノベーションと信念を組み合わせ、世界のフードシステムをより栄養価が高く、再生可能で公平なものにできるチャンスであると論じます。すべての人にとって健康的で栄養価が高く持続可能な食事が手頃な価格で手に入るようなフードシステムを実現する上で、環境に配慮した公平なコロナ禍からの回復、ローカルフードシステムの構築、ヒトと地球を養うイニシアチブの遂行、再生エネルギーの拡大、栄養と医療の統合プログラム、調達の最適化を通した栄養改善、といった取り組みを進めていくことが必要です。

次に栄養学に関する論説です。栄養学は比較的若く、進化し続けている学問です。定義は難しいのですが、基本的には、人々が健康であるために食料や栄養素がどのように貢献しているかを知るためのライフサイエンスです。人類が直面している前例のない課題に対して栄養学を再構成する必要が出てきたため、2005年のギーセン宣言では、栄養学の範囲を広げ、社会面・環境面も含んだ「新しい栄養学」が提唱されています。栄養不良は複雑な問題であることからも、栄養学を政治的にサポートする人は少ないようですが、栄養学が商品化に向かうのを防ぎ、公共の優先事項にすることで、フードシステムを変革するという政治的な意思を示すことができます。栄養学コミュニティ側も、現在の社会や政策のニーズに基づいて研究アジェンダを設定し、社会に役立っていると言う自信を持つことです。政治的意志・社会的ニーズ・栄養学の調和が求められます。 

2021年4月から開始した国際農研の第5期中長期計画においては、国際情報の戦略的な収集分析提供活動を強化しており、今年はとくに世界の食料栄養安全保障に影響を及ぼす動向に関する最新情報の発信に力を入れていく予定です。

参考文献

Transitions of nutritional sciences. Nat Food 2, 129 (2021). https://doi.org/10.1038/s43016-021-00254-4  Accessed on April 1, 2021
Steiner, R. Our food systems need inspiring and actionable vision. Nat Food 2, 130–131 (2021). https://doi.org/10.1038/s43016-021-00246-4  Accessed on April 1, 2021

(文責:情報広報室 白鳥佐紀子)

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