JIRCAS広報戦略

平成29年3月7日
国立研究開発法人
国際農林水産業研究センター(JIRCAS)

国立研究開発法人国際農林水産業研究センター(JIRCAS)は、我が国における国際農林水産業研究を包括的に行う唯一の試験研究機関として、関係機関との連携体制を強化するとともに、開発途上地域を対象とする研究開発に関して中核的な役割を担い、世界的な食料問題の解決と我が国の農林水産業研究の高度化に貢献することが求められている。平成28年4月より開始された第4期中長期計画においては、研究開発の成果の最大化を目的として、政策の方向に即した研究の推進、産学官連携協力の促進・強化、知的財産マネジメントの戦略的推進、研究開発成果の社会実装の強化、行政部局との連携強化を図ることとしており、広報業務は、これらを推進する重要な手段と位置づけられている。

JIRCASは、これまで「国際農林水産業研究センターにおける広報活動の基本方針」(平成21年9月16日)を定め、広報業務に関する基本的な考え方を示し、資源の確保や広報業務に関わる部署の育成・強化を図ってきた。しかし、今後の広報業務は、単にJIRCASの活動の情報発信という機能にとどまらず、研究開発成果の最大化のための重要な手段として位置づけられる必要があり、JIRCASが国立研究開発法人として果たしている役割すべてを可視化し、外部に対して情報を有効に伝達・交換する手段として再定義する必要がある。また、ICT技術の進歩や研究対象である農林水産業技術の進歩、さらには公的機関の説明責任の明確化などに伴って、広報の態様も変化し、多様化しつつある。

本戦略は、上記の広報業務の新たな役割を踏まえ、今後5年間程度の期間を想定した広報業務の基本理念、重点目標、具体的な取組、体制の強化等について示し、戦略的で効果的な業務推進のための指針とする。

1. 基本理念

(研究成果の最大化)

 第4期中長期計画では、開発途上地域における農林水産技術の向上というJIRCASの目的を達成するため、研究開発成果の社会実装の強化の手段として、研究開発成果の公表、技術の普及に向けた活動の推進、広報活動の推進、国民との双方向コミュニケーション、研究開発成果の中長期的な波及効果の把握と公表などを掲げている。広報活動は、単にJIRCAS業務の対外的周知にとどまらず、研究成果の最大化の重要な手段として成果を社会実装につなげるための基幹的な業務と位置づけられる必要がある。最先端の基礎研究により創造された革新的な知や、海外の国際共同研究により開発された現場直結型の研究成果を、適時、的確にピンポイントで発信し、成果の迅速な応用や実用化につなげる役割が求められている。国内外との連携協力に関しては、国際交流、産学官連携、社会貢献および地域社会との交流等の様々な活動を展開し、情報発信の対象を多様化・差別化していく努力が必要となる。

(センター機能)

JIRCASは、平成31年に設立50周年を迎える。これまで、熱帯・亜熱帯を中心とする開発途上国の研究機関・大学や国際農業研究協議グループ(CGIAR)等との共同研究を実施してきており、これらの海外研究機関等の我が国でのフォーカルポイント、国際農林水産業研究に関するナショナルセンターの機能を果たしてきた。前身の熱帯農業研究センター設立以来築いてきた、農林水産業研究分野における我が国唯一の国際研究センターとしての機能を継承・発展させ、我が国及び世界での存在意義を発揮していくことが求められている。広報業務は、これらの機能が対外的に正確かつ適切に認識、評価され、持続的に維持されるための第一線のいわば表看板の業務であり、JIRCASの存在意義の重要な一部を形成している。従って、広報業務が、単に「研究の支援」業務、「外部との連携」業務であるという発想から脱皮し、「我が国を代表する研究機関」として、「世界の中のJIRCAS」という役割を積極的にアピールしていく取り組みが求められている。

(個人情報保護と危機管理)

 情報の収集・発信に際しては、個人情報保護、著作権、その他の人権に十分配慮することが必須である。一方、広報業務には、危機管理対応という側面も重要な要素として存在している。リスク管理室等の関係部署との連携を密にし、事前準備を徹底し、機能的な体制を確立する必要がある。

1. 重点目標

 上記の理念のもと、将来を見据えたダイナミックな広報業務を展開するために、以下の7つの事項を活動の重点的な目標とする。

  1. 迅速かつタイムリーな情報発信、業務全般の見える化
    JIRCASが関与する広範な情報を迅速かつタイムリーに発信する。このためにはJIRCASの状況および成果等の各種情報を把握し、類型化、定型化、可視化しておく不断の努力が重要であり、そのための戦略的、組織的な活動を日常的に継続する。
  2. 対象を明確にした情報発信と双方向コミュニケーション
    JIRCASの全体戦略と方向性を合致させた総合的な情報発信を行う。また、国内はもとより、共同研究を実施する開発途上地域においても、シンポジウムやセミナー、技術展示等の場を積極的に利用し、効果的な双方向コミュニケーションを進める。
  3. 容易に利活用可能な研究・技術情報の発信
    JIRCASが有する研究成果のデータベース化・マニュアル化を推進し、成果の利活用が見込まれる国や地域において、国際協力機構(JICA)の開発事業などとの連携をとりつつ、成果の普及に向けた能動的取り組みを加速化する。現地語版の整備のほか、生産者・企業・普及組織等が利用し易い形態での情報提供に努める。
  4. 問い合わせ等への迅速・的確な対応
    プログラムディレクター(PD)や各研究領域等との情報共有・有機的な連携により、外部からの問い合わせに正確かつ迅速に対応し、国際的な農林水産業研究のナショナルセンターとしての機能を発揮する。対応内容の波及効果、関係機関への影響等を事前に検討し、柔軟かつ臨機応変の対応方法の選択に心がける。
  5. 知名度向上の取り組み
    JIRCAS(ジルカス、国際農研)の国内での知名度の向上を図る。熱帯・島嶼研究拠点(石垣市)においては、熱研一般公開、熱研市民講座や熱研技術講習会等を別途開催しているが、JIRCAS活動内容の石垣市民への理解を深めるため、いっそうの充実に努める。JIRCASのブランドイメージを確立するため、特に、国民に対して、JIRCASが取り組む課題やその背景等を含め、JIRCASの活動状況、研究成果を体系的に理解できるような発信を行う。特に、国際対応を使命とする他の機関(JICA等)との違いなど、業務内容のより正確な理解を得るための新たなキャッチコピーやコミュニケーションネームの選定を進める。
  6. 関係機関との連携協力
    JICA、国内の大学、海外の共同研究機関、CGIAR等の国際機関、民間企業等が実施する広報活動についての最新の情報を収集するとともに、広報担当部署との意見交換などを通じ、関係諸機関との連携協力を強化し、効果的かつ効率的な情報発信を行う。また、国内外の研究ネットワークを通じた情報発信を活用するとともに、JIRCASからの情報発信を通じてJIRCASを中核とする人的ネットワーク(例:JIRCASと共同研究を実施した外国人研究者、若手外国人農林水産研究者表彰受賞者等)の形成を試みる。
  7. 所内における情報共有と職員の意識向上
    JIRCASの置かれている状況を正確に把握し、一体となって業務運営に取り組める内部体制を構築する。広報活動がJIRCASの基幹業務であることを職員に周知し、すべての職員の意識改革を図り、職員全員で広報活動に取り組む。研究戦略室(海外連絡拠点を含む)、研究プログラム・研究プロジェクト、企画連携部(産学官連携、国際交流、知財管理などを所掌する部署)、研究領域、熱帯・島嶼研究拠点などとの連携を強化して情報の共有化を進め、それぞれが相乗効果、補完効果を発揮できるような体系的な情報発信を目指す。

3. 具体的な取組

 情報発信は、プレスリリース(記者レク、資料配付、お知らせ等)等による研究成果の公表、広報誌(JIRCASニュースやJIRCAS Newsletter等刊行物)の発行による研究活動の紹介、さらに、ウェブサイト等を活用した発信およびその他の広報媒体による発信を基本とする。さらに、双方向コミュニケーションの場として、シンポジウム等のイベントを効果的に活用する。

 また、事件・事故等、緊急の報道対応が必要になった場合に備え、危機対応マニュアルを整備するとともに、リスク管理室が整備している「非常時における業務継続計画」等に準拠し、関係部署との緊密な連携がとれる体制を確立する。

  1. プレスリリース(研究成果の公表等)
    JIRCASの活動について、研究成果が公表できる段階になってからメディアにコンタクトするのではなく、日頃からメディアとの関係を強化しておく必要がある。このほか、関係者、近隣住民に対して速やかな情報提供を要する事案等についても、報道機関への情報提供や説明会見を行うことにより、JIRCASとしての説明責任を果たすことが可能となる。
    1. 記者会見
      JIRCAS職員が記者に直接その内容を説明するもので、質疑応答も行うため、内容を十分に理解してもらうことができる。そのため、記者会見を行うことにより、記事掲載の可能性も高くなり、読者等に分かりやすい正確な記事を作成してもらうことができるため、効果的な情報発信手段となる。記者会見に適する事項としては、ア.特に優れた研究成果(社会的にも強いインパクトを与えることが予測される、あるいは、該当分野での今後の研究進展に強い影響を与えるような特に優れた研究成果)、イ.内容が複雑で、資料のほかに口頭で説明しなければ理解が困難なもの、ウ.実物や実演を記者に体験してもらうことで理解が深まるものなどがある。
      JIRCASや主務官庁(農林水産省農林水産技術会議事務局)の考え・意向等を直接説明し、正確な情報発信に努める。なお、重大な事件等での会見に際しては、JIRCAS側からの単なる一方通行の説明だけでなく、記者との質疑応答においても真摯に対応し、社会に対して説明責任を果たす必要がある。
    2. 資料配布
      資料配付に際しては、記者が配付資料を読んで内容を理解し記事を書くことができるように、タイトル・ポイント・概要が、記者の関心を呼べる内容となるように工夫する。
    3. お知らせ
      セミナーやシンポジウム等のイベント開催案内、出版物の刊行案内などの情報提供は、「お知らせ」で対応する。
  2. 広報誌の発行
    日本国内向けの広報誌として「JIRCASニュース」、国外向けの英文広報誌として「JIRCAS Newsletter」を継続して発行・配布し、JIRCASの現在の状況や研究成果等を内外に広く発信する。その内容については、広報委員会を中心に年間計画を作成し、タイムリーな話題を特集記事として企画する。過去の経緯にとらわれることなく、より魅力的で効果的な広報誌となるよう、随時内容、体裁を見直す。
  3. ウェブサイト
    ウェブサイトは、単なる情報発信媒体の一つではなく、不特定多数への情報発信を行うために有効な情報発信媒体と考えられ、JIRCASにおける広報活動においても重要な位置を占める。JIRCASでは、平成28年度にスマートフォン等タブレット端末に対応したサイトデザイン(レシポンシブウェブデザイン)やCMS(Contents Management System)の導入等を行ったが、今後、アクセス状況等の分析を踏まえ、広報委員会が中心となってウェブサイトのリニューアルを進める。
    トップページは、インターネットにおけるJIRCASの顔といえる。JIRCASが取り組む研究活動の直感的な理解と、JIRCASが重視する活動に関する情報が概観できるよう構築する必要がある。また、多様なステークホルダーの関心やニーズに応じて必要な情報を容易に得られるよう、またJIRCASが発信したい情報を戦略的に表示できるよう改修する。
    JIRCASが取り組む研究活動の発信のため、現地ワークショップや技術講習会、セミナー開催、JIRCASの動きイベント等の案内・報告について、タイムリーに掲載するように努める。また、各記事は担当職員の作成・入力を原則とし、ウェブサイトを活用した情報発信に直接携わることで広報活動に対する職員の意識の向上を図る。
    特にJIRCASは、長期にわたって協力関係を継続する研究機関とMOU等の覚書を締結し(113件、平成27年度)、開発途上地域の27カ国74研究機関(平成27年度)と共同研究を実施しているが、このようなJIRCASの特徴的な取り組みについて広く国民へ広報する。ウェブサイトへの訪問者数の増加や繰り返しての訪問だけでなく、海外研究機関に対するJIRCASフォーカルポイント機能、国内研究機関に対するナショナルセンター機能の充実にも資する対策を講じる。
  4. メールマガジン
    JIRCASメールマガジン(日・英版)を定期的、継続的に発信する。メールマガジンは、JIRCASウェブサイトへの誘導という役割があるため、広範囲の分野から会員登録が増えるよう、一般公開や外部イベントへの出展時などあらゆる機会に会員登録を勧誘する。
  5. その他の広報媒体
    現在、JIRCAS紹介DVD(日・英版)や要覧(日・英版)、リーフレット(日・英・仏版)の他、年報(英)のほか、研究成果については学術雑誌(英、JARQ: Japan Agricultural Research Quarterly)、国際農業研究叢書JIRCAS working reportなど、さまざまな媒体を活用して、JIRCASの活動や研究成果に関する情報を広く発信している。これらの刊行物の質の向上を図りつつ、継続的に刊行するとともに、今後、さらに新しい広報媒体を発掘していく必要がある。
    近年では、ソーシャル・ネットワーク・サービス(SNS)を用いた情報発信・情報交流が急速に普及している。その即時性、双方向性から多くの機関で利活用が行われており、有用なツールである一方、イメージダウンにつながる負の情報が瞬く間に拡散する事例もあることから、JIRCASでの導入と運用にあたっては慎重な検討が必要である。同時に、SNS上でのJIRCAS関連情報を注視していくことも重要である。
  6. イベントの活用
    国内外の関係機関や研究プログラム等と連携して、シンポジウムやセミナー、技術展示会等の場に積極的に参画し、JIRCASの知名度の向上と業務内容の広報に努める。この際、参画するイベントの目的、参加者等を事前に精査し、情報の受け手に応じた効果的な情報発信を意識する。JIRCASが主催するイベントにおいては、開催の趣旨、目的を明確にし、関係機関、参加予定者への事前の情報提供、働きかけを十分に行うことが重要である。参加者と対面できるイベントは、効果的な双方向コミュニケーションが可能となることから、参加者との意見交換を重視し、外部からの意見等についての情報発信も積極的に行う。

4. 体制の強化等

  1. 広報体制の強化(人員・予算)
    JIRCASの広報体制には限りがあるが、年々増え続ける情報発信の件数、今後ますます重要となる外部との連携協力、次々に生まれ世間に広まっていく新たな広報媒体(SNS等の情報発信ツール)などに対応する必要がある。JIRCAS組織全体としては厳しい人員・予算の削減を行っているなか、これらを考慮した組織体制の強化と予算配分の見直しを図る必要がある。また、全所的な視点から所内の連携強化を図り、全所的で柔軟な広報活動を担うとともに、我が国を代表して情報発信を行うことができる、十分な責任と権限を有する情報広報室体制の構築が重要である。一方で同時に、広報倫理や各種権利保護等に関して監査する体制の整備と強化も必要となる。
  2. 情報広報室以外の部署との連携
    企画連携部情報広報室が中心となって、報道機関への情報提供や取材対応、JIRCASニュース、JIRCAS Newsletter等の広報誌やJIRCASメールマガジンの発行、JIRCASウェブサイトの管理運営などの全所的な広報活動を行っている。各種の展示会への出展やサイエンスカフェ、出前授業やサイエンスQ等のアウトリーチ活動についても情報広報室が担当している。その一方で、研究成果情報の管理や知的財産の利活用に関する業務は異なる部署が所掌しているほか、熱帯・島嶼研究拠点においては、石垣市において独自のアウトリーチ活動を行っている。また、共同研究先での広報や研究成果の普及についてはそれぞれのプロジェクトが個別に広報活動を行っている。これらの広報活動全般の調整、関係者の意識の統一を図るため、企画連携部長(委員長)、研究戦略室長、総務部長、PD、熱帯・島嶼研究拠点所長のほか、事務局として情報広報室職員、熱帯・島嶼研究拠点広報担当が参加する広報委員会が設置されている。今後、より一層の連携強化による総合的、体系的な広報業務を展開するため、広報委員会において、年間の広報計画を策定し(Plan)、それに従って広報活動を展開し(Do)た効果を検証し(Check)、次年度の広報計画に反映させる(Action)といったPDCAサイクルを強化し運用する。
  3. 専門的人材等の活用
    いわゆる「広報畑」の人材として、写真撮影、広報誌やウェブサイト等の取材・編集などの能力を有する専門人材の育成、登用も必要である。サイエンスライターや広告会社勤務経験を有する人材や、ウェブサイトの制作・維持管理に精通したデザイナーなどの情報系の人材、インターネット上での国際研究機関とのリンク形成など、様々な専門的能力を有する人材の育成ならびに活用が喫緊の課題である。
  4. 情報発信拠点の強化
    研究機関が集中する地域特異性を活かし、つくば市が運営する交流サロン等を活用するとともに筑波研究学園都市交流協議会(筑協)の活動を通じてつくば市や他の研究機関と連携した情報発信を積極的に展開する。また、タイ(バンコク)やケニア(ナイロビ)の海外連絡拠点や熱帯・島嶼研究拠点を活用して積極的な情報発信を図る。現在、JIRCASニュースは国内を中心に800機関、JIRCAS Newsletterは海外を中心に2200機関に配布している。今後、国内外でこれら広報誌の配布箇所を拡充し、新たな情報発信拠点の開拓に繋げる必要もある。
JIRCAS広報戦略
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