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190. ランセット健康と気候変動カウントダウン2020年報告書

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2020年12月、The Lancet誌にて、「ランセット健康と気候変動カウントダウン2020年」が公表され、気候変動の健康インパクトに関する最新データが発表されました。2020年報告は気候科学、地理学、工学、エネルギー・食料・輸送専門家、経済学、社会学、政治学、データ科学、公衆衛生、医療、を含む多くの分野からの研究成果をとりまとめ、感染症の地理的拡大、低炭水化物ダイエットの健康利益、カーボン価格、気候変動緩和、熱中症由来死亡率などを含む43指標を公表しました。

気候変動はその原因に最も関与していない脆弱な人々の健康をリスクにさらしています。過去20年間、65歳以上のグループにおける熱中症関連の死亡率は、その前の20年間に比べ53.7%上昇、2018年には29万6000件が報告され、この殆どが日本、中国東部、インド北部、中央ヨーロッパなどで報告されました。インドやインドネシアでは熱波により労働に換算してGDP4~6%に相当する経済生産性の喪失が報告されています。気候変動は洪水や干ばつ・熱波・山火事などをもたらし、公衆衛生とインフラに甚大な影響をもたらしています。さらに気候変動は環境システムへの影響を通じて人類の健康を損なっています。気温上昇と極端気象のために世界食料安全保障も脅かされており、1981年から2019年の世界的に主要な穀物の収量ポテンシャルは1.8~5.6%減少しました。1950年代以来、気候の変化は感染症拡散に好条件をもたらしており、デング熱やマラリア感染例も増加しています。今後、1.45~5. 65億人の人々が海面上昇による被害を受けると予測されています。

にも関わらず、気候変動の取組は遅々としています。食料農業部門でも同様です。2000-2017年の間、畜産からの温室効果ガスは16%上昇し、そのうちの93%が反芻動物由来でした。2017年には赤身肉の過度な消費に起因する死亡が99万件報告されています。これらデータは早急なアクションの必要性を示しています。

2020年12月12日は、2015年パリ協定の5周年となり、各国が5年ごとに国別コミットメントを見直すタイミングです。次の5年間は気温上昇を2℃より十分低く、1. 5℃ターゲットの達成へ向けて行動しなければなりません。このためには、2030年までの10年間に現在二酸化炭素換算で56ギガトン排出されている温室効果ガスを25ギガトンに半減させなければなりません。年換算で7.6%の削減が必要であり、現在の政府目標を5倍しなければ間に合いません。次の5年間に十分な介入がなければ、その後は毎年の削減を15.4%にしなければ1.5℃目標を達成できないことになります。COVID-19パンデミックへの世界的な対応から気候変動への対応も学ぶべきところがあります。パンデミックによる人的・経済的コストとその数年に及ぶ影響を考えれば、気候変動に対しても同様の回避アクションが求められます。

近年、日本においても、極端気象が公衆衛生とインフラに甚大な影響を及ぼすようになっています。また、輸入食料に食料栄養安全保障を依存する日本にとって、地球規模レベルでの気候変動対策へのコミットメントは不可欠です。国際農研は、世界の農林水産業分野における科学技術に関する情報収集・分析・提供を通じ、持続可能な開発目標やパリ協定を含む国際的なアジェンダ達成に必要な戦略的技術開発の方向性やモニタリング指標開発について提言を行っています。

 

参考文献

Nick Watts MA et al. The 2020 report of The Lancet Countdown on health and climate change: responding to converging crises https://www.thelancet.com/journals/lancet/article/PIIS0140-6736(20)32290-X/fulltext

(文責:研究戦略室 飯山みゆき)

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