Pick Up

155. Nature -飢餓撲滅のための持続的な解決策

関連プログラム
情報収集分析

2020年10月、Nature誌にて、「飢餓撲滅のための持続的な解決策」特集が組まれ、「科学において小規模農家を軽視する傾向を止めよ」との論説を発表しました。政策策定者は飢餓を終焉させるためのアイデアを早急に必要としているにもかかわらず、従来の研究の多くが小規模農民の課題に十分向き合ってこなかったとの文献レビューの結果に言及しました。

今日6.9億人が飢餓に苦しむ中、どのような介入が最も効果的かについて、既存の研究を評価することが一つの方法です。国際的な研究機関によるコンソーシアム(Ceres 2030)は、この問いに答えるため、3年間にわたり10万以上の公表論文を課題ごとに評価し、その成果がNature 関連誌で公表されました。Ceres2030チームは評価対象となった多くの農業研究論文が、小規模農民やその家族が直面する問題に対する解決策を十分に与えていないことに懸念を表明しました。

レビュー分析によると、小規模農民が気候変動に強靭な作物導入など新たなアプローチを採択する上で、一般に普及サービスと呼ばれる技術指導へのアクセスが重要な役割を果たすことが判明しました。また、市場へのアクセス・輸送方法や貯蔵場所を共有するサービスを提供する組合・自助グループなどの組織に属するほど、農民の所得が増加する傾向がありました。農民は小中規模企業にインフォーマルに農産物を卸すことで利益を得ており、その理由としてこうした企業が農民に情報や信用などを提供する役割の重要性が浮かび上がりました。

今日、農村地域の3分の2の人々が飢えに直面しています。世界の5.7億の農家のうち4.75億農家以上が農地面積2ha以下の農民であり、低所得国では3分の2以上が土地関連で生計を立てていることを踏まえれば、農村貧困と食料安全保障の問題は重なり合っています。一方、Ceres2030チームを困惑させたのは、分析対象となった多くの研究 ―95%以上― が小規模農民とその家族のニーズには向き合っておらず、オリジナルデータを使用した研究も少ないという点でした。

対照的に、チームは多くの研究が新しい技術の評価に割かれていることを発見しました。例えばフードロスに関しては、現状では圃場や貯蔵施設の不足によりポストハーベストで多くのロスが生じているにもかかわらず、フードロス解消を目的とした介入の90%は特定の殺虫剤や保存容器の有効性を他の要因とは切り離して分析するというケースが目立ちました。既存の農業慣行に着目し、何が成功し何が成功しないのかを評価する研究は10%程度にすぎませんでした。小規模農民は新しい技術を必要としていますが、例えばメイズ(とうもろこし)は乾燥後に収穫した方がいいのか収穫後に地面の上で乾かした方がいいかなど、既存の介入の有効性評価の研究も必要です。Ceres2030によると、多くの研究は農民の参加なく研究者のみによって行われたものでした。これは学術的機関にとどまったものではなく、SDGsの立案と検証にかかわるシンクタンクやNGOs、国連や世界銀行の研究も似たような傾向がありました。

ではなぜ小規模農民の飢餓撲滅にかかわる現実的な問いへ回答する研究があまり行われていないのでしょうか。この背景には、国際農業研究に対する資金の優先度が変化してきたこともあるかもしれません。過去40年間、農業研究資金源におけるアグリビジネスの重要性が高まるにつれ、国際農業研究の資金は次第に民間部門へとシフトしていきました。同時に、小規模農民やその家族を対象とした応用研究はアカデミックなキャリアに繋がりづらくなりました。例えば世界中のCGIARネットワークの研究者の多くは小規模農民を対象とした研究に従事しています。しかし、より大規模な研究中心の大学においては、次第に大きな資金源を目指す傾向の中、小規模農業を対象とした課題は次第に魅力を失っているようです。ジャーナル側にも問題があります。論文査読にあたり、小規模農業を対象とした研究は、オリジナル性が低い、世界的・グローバルな課題ではない、と評価される傾向があるようです。

飢餓撲滅というSDG達成のためには、小規模農民に対する研究に重点を置いていくことが重要です。

 

参考文献

Nature Editorial. Ending hunger: science must stop neglecting smallholder farmers Policymakers urgently need ideas on ways to end hunger. But a global review of the literature finds that most researchers have had the wrong priorities. October 12, 2020. https://www.nature.com/articles/d41586-020-02849-6  

Nature Research. Sustainable solutions to end hunger. October 12, 2020. https://www.nature.com/collections/dhiggjeagd

(文責:研究戦略室 飯山みゆき)

関連するページ