研究成果

迅速・高い空間解像度で土壌型を判定
-西アフリカの砂漠化防止と飢餓撲滅を目指して-

関連プログラム
資源・環境管理
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平成30年8月8日
国際農

迅速・高い空間解像度で土壌型を判定

―西アフリカの砂漠化防止と飢餓撲滅を目指して―

 ポイント

  • 砂漠化の最前線・飢餓常襲地の西アフリカで有効な土壌診断技術を開発
  • 迅速・高解像度な土壌型・土地生産力の把握で適切な農法の提案が可能に
  • 土壌条件を踏まえた土壌保全、品種改良、栽培管理等の技術開発が加速し、砂漠化と飢餓問題の解決が期待できる

概要

最貧国が集中する西アフリカのスーダンサバンナ1)で砂漠化と飢餓の問題を解決するためには、土壌を適切に保全しつつ、持続可能な方法で農業生産力を高める必要があります。現地では、これまで土壌保全、品種改良、栽培管理等に関する多くの研究が実施されてきました。しかしスーダンサバンナは、数百m程度離れただけでも土壌型と土地生産力が大きく異なるという特徴があります。このため、ある調査地点で得られた試験結果をどこまで適用できるかわからず、せっかくの研究成果を実用的に利用できない要因となってきました。一方、土壌型と土地生産力を知るには高度な専門知識と多大な労力と時間が必要なため、大規模な調査を実施することが難しく、スーダンサバンナで農業技術の開発を進める際に大きな障壁となっていました。

国際農研はブルキナファソ国・環境農業研究所との共同研究の下、市販の地中レーダー2)によりスーダンサバンナで主要な三種類の土壌型と土地生産力を迅速に高解像度で評価する手法の開発に世界ではじめて成功しました。本手法により、例えばこれまで高度な専門知識を持った研究者が1年という時間を要していた土壌調査を、専門知識を持たない人でも数日で実施できるようになり、また従来法に比べて空間解像度も数百倍になります。さらに、地中レーダーで詳細に土壌型を把握できるため、土壌条件に応じて試験結果の適用範囲を決定することが可能になります。今後スーダンサバンナで土壌型と土地生産性を踏まえた土壌保全、品種改良、栽培管理等の技術開発が加速され、砂漠化と飢餓の問題が解決に向けて大きく前進することが期待されます。

本研究成果は、国際科学専門誌「Soil Science and Plant Nutrition」電子版に8月3日に掲載されました。

<関連情報> 予算:運営費交付金

発表論文

<論文著者> Ikazaki, K., Nagumo, F., Simporé, S., Barro, A.

<論文タイトル> Soil toposequence, productivity and a simple technique to detect petroplinthites using ground-penetrating radar in the Sudan Savanna

<雑誌> Soil Science and Plant Nutrition (2018) DOI: 10.1080/00380768.2018.1502604

問い合わせ先など

国際農研(茨城県つくば市)理事長 岩永勝
研究推進責任者:プログラムディレクター 飛田哲
研究担当者:生産環境・畜産領域 研究員 伊ヶ崎健大
広報担当者:企画連携部 情報広報室長 辰巳英三
プレス用 e-mail:koho-jircas@ml.affrc.go.jp

本資料は、農政クラブ、農林記者会、農業技術クラブ、筑波研究学園都市記者会に配付しています。

※国際農研(こくさいのうけん)は、国立研究開発法人 国際農林水産業研究センターのコミュニケーションネームです。
新聞、TV等の報道でも当センターの名称としては「国際農研」のご使用をお願い申し上げます。

開発の社会的背景

西アフリカに位置する半乾燥地のスーダンサバンナには、プリンソソル(Ⅰ型、Ⅱ型)3)リキシソル4)という性質と生産力が大きく異なる土壌(図1)が(まだら)に分布しています。プリンソソルでは、作物の根が伸長しにくいためリキシソルに比べて生産力が低く、また、土壌侵食を受けやすいため砂漠化5)が起こりやすいという特徴があります。従って、スーダンサバンナで砂漠化と飢餓の問題を解決するためには、これら主要な三種類の土壌型を考慮した土壌保全・生産力向上のための持続可能な農法を確立する必要があります。

図1 スーダンサバンナで優占する土壌型と生産力の関係

(作物収量はソルガムで評価した)

研究の経緯

スーダンサバンナではこれまで土壌保全、品種改良、栽培管理等に関して多くの研究が実施されてきましたが、土壌型を考慮できなかったため、相反する研究結果が観察されるなど、様々な問題点が指摘されてきました。しかし土壌型の特定には、土壌調査に関わる高度な専門知識が必要なだけでなく、1ヶ所ずつ穴を掘って土壌試料を採取した後、多くの分析が必要なため、土壌型の分布を把握するには多くの労力と時間がかかります。そこで本研究では、迅速・高解像度で土壌型と土地生産力を把握できる簡便な手法の開発に取り組みました。

内容・意義

本研究ではまず、地中レーダーを用いて土中の鉄石固結層3)の位置を精度良く推定できることを証明しました。次いで土中の鉄石固結層の位置によって土壌型を推定できることを示しました(図2)。以上より、スーダンサバンナでは地中レーダーで土壌型の判定と土地生産力の把握が可能であることが示されました(図2)。本研究で用いた地中レーダーは、1 cmの高解像度にて毎秒1 mの速度で走査が可能です。また、地中レーダーの走査画像は付属ソフトウェアの簡易補正で容易に鉄石固結層の位置データに変換できるため、土壌調査や地中レーダーに関する高度な専門知識がなくても簡単に実施することができます。

本成果により、スーダンサバンナで専門知識を持たない人でも簡単に、そして迅速に高解像度の土壌図を作成できるようになりました(図3)。

図2 本研究の概要

図3 従来法と本手法との比較

今後の予定・期待

地中レーダにより得られた土壌図を用いることで、土壌条件を考慮した土壌保全、品種改良、栽培管理等の研究の推進が容易になります。これらの研究を組み合わせることにより、土壌型ごとに適切な砂漠化対処技術、適切な作物と品種の導入、栽培管理法の開発も可能になります。さらに、開発技術の普及適地も的確に把握できるため、砂漠化と飢餓問題が解決に向けて大きく前進することが期待されます。

用語の解説

1) スーダンサバンナ
サハラ砂漠の南に位置する年間降水量が600~900mmの半乾燥地を指す。東西約3300km、南北約300kmで、面積は我が国の国土面積の約2.5倍。セネガル、ガンビア、マリ、ブルキナファソ、ニジェール、ベナン、ナイジェリアの7ヶ国にまたがっており、2017年6月時点では、ナイジェリア以外は後発開発途上国である。
2) 地中レーダー
地中に電磁波を放射し、電気特性の異なる境界で反射した電磁波を捉えることで地中を探査する装置。電磁波の往復時間から境界面の深度を推定できる。本研究で使用したレーダーは、800MHzと300MHzの2周波を同時に出力できる。
3) プリンソソル、鉄石固結層
土壌型の一つ。最新のFAOの分類体系(世界土壌照合基準2015年)によれば、プリンソソルとは鉄により土壌粒子が結合されて鉄石となったものを多く含む鉄石層もしくは鉄石同士がさらに鉄によって結合されて板状になった鉄石固結層を土中の浅い場所に有する土壌を指す。ここではスーダンサバンナで優占する、鉄石層と鉄石固結層の両方を持つPisoplinthic Petric PlinthosolsをⅠ型、鉄石固結層だけを持つPetric PlinthosolsをⅡ型とした。走査画像では鉄石固結層が33cm深未満に見られる場合はⅠ型、33~50cm深に見られる場合はⅡ型と判断することができた。なお、鉄石層のみを持つPisoplinthic PlinthosolsというⅢ型もあるが、本研究ではⅢ型までは検討していない。
4) リキシソル
土壌型の一つ。ここでは鉄石層や鉄石固結層を土中の浅い場所に持たない土壌を指す。作物にとっての有効土層が厚いため、プリンソソルと比較して生産性が高い。
5) 砂漠化
国連砂漠化対処条約での定義を簡略化すれば、乾燥地で土壌が強風や豪雨によって削られる土壌侵食により土地生産性が低下する現象を指す。砂丘や砂地の拡大による砂漠化は世界的にみれば稀である。

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