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37.養分利用に優れた稲作技術開発でマダガスカルの食料安全保障に貢献

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アフリカ大陸から約400km東に位置するマダガスカルは、豊かな生態系や珍しい動植物で知られ、島に生息する8割近い動植物がここにしか見られない固有種と言われています。しかし、この国の農業が稲作を基盤とし、稲作が人々の生活に密着していること、そして彼らが東南アジアや東アジア諸国と同様に、コメを主食にし、コメに対する高い嗜好性をもつことはあまり知られていません。実際に、マダガスカルの一人当たりの年間のコメ消費量は100㎏を超え、日本人の2倍以上となっています。一方で、イネの生産性は、今日まで停滞しており、主食であるコメの安定供給と多くの人口をかかえる農村地域の貧困削減を妨げています。その結果、マダガスカルは、国民の77%が1日1.9ドル未満で暮らす世界の最貧国の一つに数えられます。こうした状況を打破するために、マダガスカルは、2023年までのコメの自給達成を最も重要な国家戦略の一つに掲げて、様々な政策に取り組んでいます。

イネの生産性を阻害する要因として、農家が貧しいために肥料を購入する資金が少ないこと、アフリカ特有の風化土壌に起因する乏しい養分環境をもつことが挙げられます。そこで、国際農研は、肥料と土壌からの養分供給が少ない条件でも安定的にイネの生産性を改善できる技術開発を目指して、マダガスカル農業畜産水産省および同国の研究機関と共同で、「肥沃度センシング技術と養分欠乏耐性系統の開発を統合したアフリカ稲作における養分利用効率の飛躍的向上」(研究代表者:辻本泰弘)、通称、FY VARY(フィ・ヴァリ)プロジェクトを開始しました。https://www.jircas.go.jp/ja/satreps

FY VARY(フィ・ヴァリ)は、FertilitY sensing and Variety Amelioration for Rice Yieldの略ですが、マダガスカル語で「良いお米」を意味します。マダガスカルの人々にも馴染みやすいプロジェクト名を現地の共同研究者が考えてくれました。

本プロジェクトには、土壌、リモートセンシング、育種、作物、分子生物などの技術開発に携わる研究者のみならず、農業経済や心理学の専門家も参画しています。イネの生産性向上が農家の所得や栄養改善に及ぼす影響や、新しい技術を受け入れる農家の特性、技術が伝播される農家間のネットークを明らかにするためです。また、農家圃場での実験と調査を中心に活動を進め、農民集会を開催して農家の意見を反映させるなど、地域のニーズや環境に即した技術開発に努めています。途上国の農村地域における実験や調査には様々な困難がともないますが、こうした取り組みにより、開発された技術がスムーズに受益者である農家に届けられ、地域社会へのインパクトに繋がると考えています。

最近の研究ハイライトとして、リン浸漬処理技術に関する成果をプレスリリースしました。https://www.jircas.go.jp/ja/release/2020/press202001

これは、リン肥料(重過リン酸石灰)と水田土壌を混合した泥状の液体(スラリー)に苗の根を30分程度浸してから移植する、小規模農家にも実践しやすい局所施肥技術の一つです。同技術により、少ない肥料でイネの収量を大幅に改善できること、この技術がイネの生育日数を短縮し生育後半の低温ストレス回避に有効であることをマダガスカルの農家圃場で実証しました。本成果は、マダガスカルの現地メディアにも広く取り上げられ、農家、行政機関、肥料会社などの関心が高まっています。今後、これら関係者との連携を強化しながら、技術普及に向けた活動を進めていきたいと考えています。

南半球に位置するマダガスカルは、現在、イネの収穫真っ盛りです。しかし、新型コロナウイルス(COVID-19)の影響を受けて、国際農研の研究者もマダガスカルの研究者も農村地域にいけない歯がゆい状況が続いています。その中で、地域にいるテクニシャンや農家の方々が実験圃場での収穫調査を懸命に継続してくれています。こうした農村地域の方々の思いに答えるためにも、現地での活動が再開したらすぐにロケットスタートが切れるよう、今できる準備を進めています。

(文責:生産環境・畜産領域 辻本泰弘)

Farmers in Madagascar incorporate phosphorus dipping technology in rice cultivation

Paddy fields in the central highlands of Madagascar

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