国際機関動向
世界銀行2018「2018年版 貧困と繁栄の共有:貧困のパズルを解く [Poverty and Shared Prosperity 2018: Piecing Together the Poverty Puzzle]」概要
[極度の貧困]:世界で極貧状態にある人々の割合は2013年の11%から2015年の最新の推計で10%に下落し、現在1日あたり1.9ドル以下で暮らす人々の数は7億3600万人である。極貧撲滅対策の進展にもかかわらず、紛争・政治混乱に陥っている低所得国における極貧層の割合は相変わらず高いままである。また、1990年から2015年の間、極貧層の割合は36%から10%に減少したが、極貧の改善は近年減速傾向にある。2015年時点において、世界の極貧層の半分以上が居住するサブサハラアフリカでは貧困人口の絶対数はむしろ増加しており、楽観的シナリオを除けば、2030年でも同地域の貧困人口割合は二桁にとどまることが予測されている。
[繁栄の共有]:各国において所得下位40%の人々の状況は一様ではない。データが存在する91カ国中70カ国においては、2010-2015年の間に所得下位40%の人々の所得は改善した。とりわけ下位40%所得層の所得は、東アジアにおいて年率4.7%、南アジアにおいて年率2.6%の率で増加した。他方、極貧状態にある14ヶ国のうち3分の2において、平均所得の伸びは、世界平均の年率2%を下回った。さらに、極貧所得層の状況をモニターする必要の高い国ほど、データ収集体制に問題があり、実際は推定している状況よりも悪い可能性も存在する。
[貧困ラインの引き上げ]:世界が豊かになり極貧が局地的現象になることに伴って、世界中のすべての国々の貧困層の定義として1日当たり1.9ドルという基準は果たして妥当か、という疑問が出てくる。世界の半数以上の国において極貧人口の割合は3%かそれ以下の水準であるが、これらの国で極貧との闘いが終わったことを必ずしも意味しない。現在、世界銀行は低から高中所得国の実情を考慮し、従来の1日あたり1.9ドルの貧困ラインを補完する形で、1日あたり3.2ドル及び5.5ドルの貧困ラインとした報告も実施している。この整理によれば、2015年、世界人口の4分の1が1日あたり3.2ドル、半分近くが1日あたり5.5ドル以下で生活している。
[社会的貧困ライン]:同様に、国々の経済成長過程において、基礎ニーズを構成する要素の定義も変化し、生活コストも国毎の所得水準によって異なる。これを踏まえ、世界銀行は各国における消費・所得水準に応じた社会的貧困ライン指標を導入した。この指標によると、2015年、極貧と定義される7億人の人々の3倍に相当する21億人の人々が彼らの社会において社会的貧困に陥っていると推定した。東アジア・太平洋地域で社会的貧困層が大幅に減少したのと対象的に、サブサハラ・アフリカでは半数以上の人口が社会的貧困とされる。
[多次元的視点からの貧困指標]:貧困撲滅を目指す上で、貧困は単に消費や所得の不足では測りきれず、教育、基礎的社会サービス、ヘルスケアへのアクセス、社会保障といった生活側面も重要な役割を果たすことを理解しなければならない。貧困解決を堅固に阻む要因の解決には、多次元的な視点でみれば、包括的な経済成長と人的資本への重点投資が必要であることが明白である。
より詳しい内容に関しては、以下のサイトを通じ報告書原文を参照のこと
“World Bank. 2018. Poverty and Shared Prosperity 2018: Piecing Together the Poverty Puzzle. World Bank, Washington, DC. License: Creative Commons Attribution CC BY 3.0 IGO.”
https://openknowledge.worldbank.org/bitstream/handle/10986/30418/9781464813306.pdf
なお、概要に関する本翻訳は、世界銀行から公式に承認を受けたものではなく、翻訳上の誤りなどの責任は文責にある。
(文責:研究コーディネーター 飯山みゆき)