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世界銀行2018「世界の富の推移2018-持続可能な未来をつくる [The Changing Wealth of Nations 2018 : Building a Sustainable Future].」概要

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世界各国は、経済状況の指標としてGDPを定期的に報告している。他方、インフラ・森林・鉱物資源・人的資源など、持続的経済成長を生み出す源泉である様々な富・資本についても、信頼しうる指標に基づいてモニターする必要性が指摘されてきた。「世界の富の推移2018-持続可能な未来をつくるThe Changing Wealth of Nations 2018: Building a Sustainable Future」 は、141カ国の富---19種類に及ぶ自然資源資本・純海外資産・人的資本等を総計かつジェンダー・雇用タイプ毎に集計-- の推移を20年間 (1995-2014) にわたりカバーする。富の推計方法は2006年の初版から改良を重ね、本版では自然資源資本の推計が大幅に向上したほか、初めて世帯調査に基づく生涯収入に基づいて人的資本を推計している。本書は、まず過去20年の富の変遷を世界・地域ごとに概観し、富が開発パターンにどれ程影響を及ぼすのか実際の分析例を提示する。また、幾つかの章を割いて、人的資本の新たな指標が開発政策に応用可能か検討する一方、まだ十分に分析に取り込まれていない自然資源資本の要素 – 大気汚染・海洋漁業・エコシステム-について議論する。本書は、政策策定者のみならず、持続的な地球の未来構築に携わる全ての関係者を対象とする。

以下、本書の主な結論を挙げる。

• 1995-2014年の間、世界の富は大幅に増加した。主にアジアでの急速な経済成長に伴い、中所得国は飛躍を遂げる一方、全体的な富の格差は解消されていない。富の指標の推移を追跡することで、全ての国にとって懸念事項である開発の持続性についてモニターすることが可能となる。

• 全世界で富の総量は増加したが、一人当りでは向上が見られない。低所得国、とりわけサブサハラアフリカにおいては、人口増が投資のスピードを上回り、一人当りの富は低下した。この結果、サブサハラ諸国は、今後一人当り所得の維持・成長において困難に直面することが予想される。

• 個人の生涯収入価値で測定する人的資本は、世界的にみても、最も重要な富の源泉である。一人当り人的資本は、低・低~中所得国で増加傾向にある一方、高・中~高所得国では高齢化と賃金上昇率の停滞のために総資本に占める人的資本の割合は減少傾向にある。

• 女性の人的資本への貢献は、相対的に低い [収入・労働市場への参加・労働時間] のために、4割以下に甘んじている。女性の収入改善により、人的資本を18%改善させることが期待される。

•経済発展水準は、国の富の構成と強い相関がある。低所得国(2014年時点で47%を占める)において、自然資源資本は富の最大の構成要素(4分の1以上)である。

• 豊かになるには自然資源資本を流動化して他の資本を構築すればよい訳ではない。2014年において、OECD加盟の高所得国において、自然資源資本は全体の富の3%にすぎないにもかかわらず、一人当りでは低所得国の3倍量に相当する資本を有した。

• 全体的な富の増加・経済成長は、より効率的な自然資源資本(鉱物資源など)の活用と収入のインフラ・教育への投資、によって促進される。

• 農業用地・森林・保護区等の再生可能な資源は、持続的な管理によって恒久的な利益を生み出すことが可能である。低・中所得国において、人口増に伴い再生可能な資本の貨幣価値は倍増しており、とくに森林に比べ農業用地の価値上昇は著しい。

• 再生可能な資源とは対照的に、再生不可能な資源である化石燃料や鉱物資源は、経済開発のために一回限りの資金調達機会しか提供しない。1995年以来低所得にとどまる国の3分の2近くは、資源が豊富、または政情不安で脆弱な国家、あるいはその両方、に分類される。この事実は、豊富な資源は開発を保証せず、それら資源からの利益が一度に消費されず一部投資されることを可能にするための、強固な制度とグッド・ガバナンスが必要であることを示唆する。

•所得を測るGDPと補完的に、開発の持続性を測る富についてもモニターしていく必要がある。

 

より詳しい内容に関しては、以下のサイトを通じ報告書原文を参照のこと

“Lange, Glenn-Marie; Wodon, Quentin; Carey, Kevin. 2018. The Changing Wealth of Nations 2018 : Building a Sustainable Future. Washington, DC: World Bank. © World Bank. https://openknowledge.worldbank.org/handle/10986/29001 License: CC BY 3.0 IGO.”

URI http://hdl.handle.net/10986/29001

なお、概要に関する本翻訳は、世界銀行から公式に承認を受けたものではなく、翻訳上の誤りなどの責任は文責にある。(文責:研究コーディネーター  飯山みゆき)

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