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” Taking on Inequality- Poverty and Shared Prosperity 2016”の概要(世界銀行2016年10月2日公表)

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世銀総裁は、報告書前文にて、「1990年以来、11億人が極度の貧困から抜け出すことができた。他方、歴史的に新しい現象ではないが、不平等・所得格差は今日国家経済を脅かし、2030年までに貧困を撲滅するためのグローバルな協調を不安定化させている。このことから、不平等の解消が絶対的貧困撲滅と経済開発に果たす役割について詳しく分析する必要がある」と述べている。報告書は世銀統計を用いた国別・地域別の詳細な分析により190ページ以上に及ぶが、以下のまとめリンクを参照に、報告書の要点をまとめる。(http://www.worldbank.org/en/publication/poverty-and-shared-prosperity)

貧困
今日、世界人口の10人に1人が、一日当たり1.9ドル未満で暮らし、絶対的貧困の半数はサブサハラアフリカに暮らす
世界的に絶対的貧困は減少傾向にある。2013年の最新データによると、世界人口の10.7%に相当する7.67億人が国際的貧困線である1日1.9ドル未満で暮らす。2012年から2013年にかけて1億人、1990年以来であれば11億人が絶対的貧困から抜け出している。主に、東アジア・太平洋・南アジア―とりわけ中国、インドネシア、インド、における絶対的貧困層の削減が顕著である。今日、未だに絶対的貧困水準は受け容れられないほど高く、とくに世界の絶対的貧困層の半数に相当する3.89億人を抱えるサブサハラアフリカで顕著である。貧困層は圧倒的に農村に存在し、若者であり、教育をうけず、農業部門で雇用され、子供の多い大規模世帯に暮らしている。

繁栄の共有
下位40%人口の所得上昇率が高いほど、貧困層による繁栄の共有は促進される。2008-2009年の金融危機にも関わらず、分析を行った83か国中60カ国において、下位40%人口の所得増が観察された。これは世界人口の67%に相当する。49カ国では、下位40%の所得上昇率が上位60%の所得上昇率よりも高かった。
東アジア・太平洋、ラテンアメリカ・カリブ諸国、南アジアでは、下位40%の年率所得上昇がそれぞれ5.0%, 4.1%. 3.7%であった。しかし、高所得先進国においては、下位40%の所得は%純減した。
不平等
近年の経済成長衰退は、過去25年間の進歩を相殺しかねない。不平等を戦略的に解消することは、絶対的貧困撲滅の加速に大きな貢献をすることが期待される。1990年以来、中国やインドにおける所得増に伴う平均所得の収斂傾向に伴い、不平等は世界的には縮小傾向にあり、2008年以降、3か国中1カ国で不平等悪化が進む一方で2カ国では改善する、という傾向が見られる。他方、超富裕層による富の支配シェア拡大は懸念要因であり、過度の不平等解消に取り組んでいく必要がある。

国別の視点
過去10年間、多くの中・低所得諸国が貧困削減と所得不平等解消に成功した。これらの事例―ブラジル・マリ・ペルー・カンボジア・タンザニア―は、異なる初期条件にもかかわらず、貧困削減と不平等解消が可能であることを示唆している。例えばブラジルの最低賃金制度とセーフティネット・プログラムの拡充は、不平等解消要因の80%貢献した。マリでは、穀物生産増による農業生産・非農業労働所得増が不平等解消に繋がった。慎重なマクロ経済政策と高商品価格に支えられ、ペルーの労働市場における正規労働・インフォーマル労働賃金格差が縮小し、労働市場への参入を促したことが、高い経済成長と貧困・不平等削減に貢献した。カンボジアでは、農業から軽製造業への経済多様化が貧困層への雇用機会を増大させた。タンザニアにおいて、所得分配是正を目指す政策へのコミットメントと、小売・製造業のブームが、非熟練労働者の経済機会参加を高め、貧困削減の進歩に大きく貢献した。不平等削減の要因を分析にあたり、力強い成長、健全なマクロ経済管理、貧困層への雇用機会創造に機能する労働市場、等が共通項として浮かび上がった。

政策的観点
異なる初期条件でも、以下6戦略が不平等・貧困解消、かつ経済成長に有効な戦略である。
• 幼児教育と栄養介入(Early childhood development and nutrition interventions)
• すべての人が、適切な健康増進、予防、治療、機能回復に関するサービスを、支払い可能な費用で受けられること(Universal health coverage)
• 質の高い教育への普遍的アクセス(Universal access to quality education)
• 貧困世帯への現金供与(Cash transfers to poor families)
• 農村インフラ―とくに道路と電化(Rural infrastructure – especially roads and electrification)
• 累進課税(Progressive taxation)

(研究コーディネーター 飯山みゆき)

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