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CGIAR独立科学パートナーシップ委員会 (2018).「農業研究による貧困削減効果の評価法:CGIARの課題Assessing Poverty Impacts of Agricultural Research: Methods and Challenges for CGIAR.」概要

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過去50年にわたり、国際社会において、農業研究は途上国の経済発展を促す重要な手段として位置づけられ、政府や慈善団体は、主にCGIARや関連する研究プログラムを通じ、数億ドルもの投資を行ってきた。CGIARとパートナーによる成果は、農民たちや政府によって積極的に採用されており、その重要性は明らかである。一方、CGIARによる農業研究が貧困削減に実際どの程度貢献したのか、そうしたインパクトを最も適切に記述・計測・評価する手法は何か、という点について、残念ながら明確な答えは出ていない。本報告書は、インパクト評価に関わる研究者や農業研究の効果に関心のあるドナーを対象としている。農業研究が貧困を削減する複数かつ複雑な経路に関する前提を抑えた上で、農業研究に起因する貧困削減効果を理解するための様々な手法が紹介されている。

肥料や改良種等に関する実験では、研究者は実験条件がコントロールされ、有意なバラツキが除外されたと想定する。それにより、結果の差が必然的に導入した対策の効果となるとしている。他方、農業研究と貧困削減の間には、極めて複雑な因果関係が存在するのが常である。ランダム化比較試験(RTCs)を除き、殆どの評価研究は、事後観察により、後付的に条件を課して分類された対照グループと技術導入グループを比較することになる。しかし、農業技術を採択すること決定したグループの農民は、対照グループの農民に比べて、そもそも農業経営の意欲や能力に秀でていたり、所得水準が高かったりすることが想定される。両者の貧困削減の差が、むしろ農業技術以外の要因によって生じた可能性を否定できない。貧困削減が特定の農業技術に起因すると結論するためには、対象とした農民の特性や農業技術導入以外の要因を区別して評価を行わなければならない。

農業研究と貧困削減の因果関係の分析手法には、異なる時間的・空間的スケールに対応した情報を提供する様々な量的・質的手法がある。近年の評価で使われている手法は、主に、「ミクロレベルで特定農業技術の採択と圃場レベルでのインパクトに関する観察或いは実験的研究」、「農業技術、その採択、範囲をやや広げたアウトカムとの関連性を分析する研究」、「農業生産性の上昇が貧困削減に与える影響をマクロレベルで分析する研究」の3つのグループに分けている。評価の精度・信頼度を担保する上で、研究者は、いずれの手法を用いる場合でも、技術を農民に導入する前に、前もって予期される全ての因果関係を含むインパクト・パスウェイに関する仮説を確立し、研究設計に臨むべきである。

近年、CGAIRも貧困削減のための農業研究投資において、(技術中心から)プロジェクト志向が強まっている。貧困削減効果が期待される技術やイノベーションに焦点を当て、エビデンスを収集することにより、コーディネートされた研究プログラムの評価法について議論を深める必要がある。事後的に評価に必要なエビデンスを得ることは簡単ではない。各研究プロジェクト間の調整と、長期的かつ持続的なデータ収集のために、強い意志と先見の明が求められる。

より詳しい内容に関しては、以下の報告書原文を参照のこと

Gollin, D., Probst, L. T., & Brower, E. 2018. Assessing Poverty Impacts of Agricultural Research: Methods and Challenges for CGIAR. Rome: Independent Science and Partnership Council (ISPC). https://ispc.cgiar.org/sites/default/files/pdf/ispc_strategic_study_pov…

なお、概要に関する本翻訳は、CGIARから公式に承認を受けたものではなく、翻訳上の誤りなどの責任は文責にある。

(文責:研究コーディネーター  飯山みゆき)

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