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978. CGIARによる作物改良技術の経済効果

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978. CGIARによる作物改良技術の経済効果

 

CGIARは、開発途上国の農林水産業の生産性向上、技術発展を目的に1971年に設立された国際組織であり、国際農業研究分野におけるイノベーションを主導してきました。その前身の国際農業研究機関は1960年代からコメやコムギなど主食作物の高収量品種開発に成功し、アジアなど途上国の一部で大幅な食糧増産を実現したことは、「緑の革命」と表現されています。CGIARが国際公共財として提供してきた育種・品種改良など作物改良技術のイノベーションは、貧困撲滅・食料安全保障に大きく貢献してきたことが知られており、CGIAR研究への経済リターンも極めて高い(1ドルの投資あたり10ドルの経済リターン)と評価されてきました。

 

このたび、World Development誌にて、既存の評価をアップデートし、1960-2020年の60年間にわたるCGIARの作物技術研究の経済インパクトを評価した論文が公表されました。

 

評価のハイライトは以下になります。

  • 2020年までに、CGIARセンターとの共同研究で開発された作物技術は、世界で2.21億ヘクタール相当の農地で普及したと推計されます(近代品種採用面積4.47億ヘクタールの42%相当)。
  • これら技術の採用は年間470億ドル相当の経済利益をもたらしました。
  • CGIARによるイノベーションは、育種にとどまらず、病害虫対策や自然資源管理技術の改良を通じて、農業生産性向上に貢献してきました。
  • CGIAR関連の品種改良は、当初主食用の穀物に偏っており、とくに1970-80年代のインパクトの殆どはアジアのコメとコムギによるものでした。しかし品種改良の範囲は次第に根菜類や豆類にも拡大され、アフリカのキャッサバやトウモロコシなどで大きな成果を上げていきます。
  • 今日までに、アジアやラテンアメリカは自前での研究が可能になり、改良品種をCGIARに依存するケースは少なくなりましたが、サブサハラアフリカは作物生産におけるイノベーションにおいて未だにCGIARに大きく依存しています。(近代品種採用面積のうちCGIAR関連技術の割合;サブサハラアフリカ60%、ラテンアメリカ42%、アジア36%)
  • 少なくとも92か国がCGIARの作物技術を採用し、とくにインド・中国・ナイジェリアが最大の受益国でした。

 

農業生産性の向上、とりわけ食料作物の生産性向上は、ほかのセクターにおける生産性向上と比べても、低所得国における貧困削減に相対的に大きなインパクトをもたらします。CGIARによる作物の生産性向上は、農家の所得向上のみならず、食料価格の抑制を通じ、途上国および世界人口全体に便益をもたらしました。

気候変動と生物多様性喪失への課題に世界が取り組む中、食料安全保障と地球環境の双方に資する農業研究への投資、および作物改良技術における国際協力の仕組みはこれまで以上に重要になっていきます。


(参考文献)
Keith O. Fuglie, Ruben G. Echeverria, The economic impact of CGIAR-related crop technologies on agricultural productivity in developing countries, 1961–2020, World Development, Volume 176,
2024, https://doi.org/10.1016/j.worlddev.2023.106523

 

(文責:情報プログラム 飯山みゆき)

 

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