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CGIAR独立科学パートナーシップ委員会 (2018).「国際農業研究の開発インパクト-事後評価と収益率 Estimating ex post Impacts and Rates of Return to International Agricultural Research for Development」概要

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国際農業研究の評価は、高い投資収益率だとする報告が多く存在する、一方で貧困削減効果の厳密な評価方法論が未だ議論されており、意見が大きく割れている。そもそも農業研究投資の収益率( rate of return)という概念を事後評価に適用することには課題がある。本報告書ではCGIAR研究のインパクトを評価する代替的アプローチについて検討する。

国際農業研究の成果の多くは国際公共財(非競合的かつ非排除性のため)であるという共通認識が、国際社会が協調して公共資金を投入する理論的背景となっている。「途上国向けに新たな農業技術を開発しようとする民間企業や個人投資家は投資からの利益を全て回収できないため、市場に任せていては望ましい研究水準に必要な投資が行われない。」この仮定が、長年にわたってCGIAR研究への資金供与の根拠となってきた。今日、サブサハラ・アフリカの一人あたり農業研究開発費は、1980年代と比べて世界との差がさらに広がっている。ドナー諸国による投資の必要性には議論の余地はないものの、実際にどれだけの投資が具体的にどの分野に必要なのかについては答えが出ていない。

国際農業研究に関しては、比較的高い投資収益率が報告されてきた。最近の研究(Rao, Hurley & Pardey 2016)において、2,829の国際農業研究評価事例が再評価され、平均の内部収益率(internal rate of return-IRR)が59.6%であったのに対し、修正を加えた収益率(modified internal rate of return-MIRR)では14.3%と大幅に下がった。より現実的な数値でも農業研究投資は十分収益性があることが証明された。

他方、国際農業研究への投資収益率の推計は説得力があるが、開発のための農業研究(agricultural research for development [AR4D])の場合、予期されるインパクトが経済的側面にとどまらず社会・環境的側面にも及ぶため、投資評価への応用に方法論的課題が残る。IRR手法は生産性・収益改善の経済的便益を数量化するために開発されたが、現実世界では技術導入と生産者・消費者の受ける便益の関係は複雑であり、技術導入効果を事後的に評価することは一筋縄ではいかない。例えば、米の早生種は米の全供給量を実際に減らす可能性がある一方で、生産者が休閑期にひよこ豆を生産することを可能にし、ひよこ豆の総生産曲線を上方シフトさせうる。複雑な影響に対応した分析手法が必要となる。

近年、CGAIR農業研究投資の(技術中心から)プロジェクト志向が強まる中、特定技術・研究成果への投資を切り離して便益・費用の計上とインパクト評価を行うことが困難になってきている。農業研究の貧困削減効果の議論にもあるように、事後的に評価を行う上では、ミクロ・マクロ、量的・質的と複数の異なる手法を駆使してデータを収集し、説得力あるエビデンスを構築するのが数少ない選択肢である。評価の質を担保する上で、次の3点が重要である。すなわち、①費用だけでなく研究成果とインパクト計測の正確性、②研究とその成果の因果関係想定条件の厳密化、③広範囲な代表性の確保とインパクトの正確なモデル化を可能にするサンプル選定、である。こうしたインパクト評価アプローチは、適切に実施されれば、インパクト・費用対効果について正確かつ信頼しうるエビデンスとなる。推測に依存する投資収益率よりも将来のR&Dへの指針を提供しうる。

より詳しい内容に関しては、以下の報告書原文を参照のこと

Stevenson J, Johnson N, Macours K. 2018. Estimating ex post Impacts and Rates of Return to International Agricultural Research for Development. SPIA TECHNICAL NOTE N. 6 https://ispc.cgiar.org/sites/default/files/pdf/ispc_technicalnote_expos…

なお、概要に関する本翻訳は、CGIARから公式に承認を受けたものではなく、翻訳上の誤りなどの責任は文責にある。

(文責:研究コーディネーター  飯山みゆき)

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