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1499. 熱帯林、干ばつ激化で「危険な転換点」に接近か
1499. 熱帯林、干ばつ激化で「危険な転換点」に接近か
熱帯林は「地球の肺」とも呼ばれ、大気中の二酸化炭素(CO2)を吸収する巨大な炭素吸収源として、気候の安定化に重要な役割を果たしています。しかし近年、気候変動に伴う干ばつの激化により、その機能が揺らぎ始めている可能性が指摘されています。
2026年に学術誌『Geophysical Research Letters』に掲載された研究では、1982~2019年までの衛星観測データと気候データを解析し、熱帯域全体において「植生干ばつ(vegetation drought)」が顕著に強まっていることが報告されています。特にアフリカの熱帯林では、干ばつの強度および影響範囲が急速に拡大しており、他地域と比べても影響が大きいことが示されています。
同研究の特徴は、従来の降水量に基づく干ばつ評価ではなく、植物の生理的ストレスに着目した点にあります。具体的には、大気の乾燥度(VPD)と土壌水分(SM)が植物成長に与える影響を分離し、衛星由来の植生指数(NDVIやLAI)を用いて、植生が実際に受けている乾燥ストレス(大気の乾燥および土壌水分不足の影響)を評価しています。
その結果として、熱帯域では大気の乾燥化が進む一方で土壌水分は減少傾向にあり、植生への水分ストレスが長期的に増大していることが示されました。また、機械学習を用いた要因分析により、植生干ばつ強化のうち半分以上が土壌水分の低下によって説明されることが報告されており、土壌水分が主要な要因であるとされています。
一般に、熱帯林では水不足が続くと葉の気孔が閉じ、光合成によるCO2吸収が抑制されます。その結果、樹木成長の低下、落葉、森林火災リスク増大、さらには樹木の枯死などが連鎖的に進行する可能性があります。研究では、現時点で森林の大規模な「崩壊」が生じているわけではないとしつつも、一部地域では生態系が急激に変化する「ティッピングポイント(転換点)」に近づいている可能性があると指摘されています。
さらに同研究では、現在広く利用されているCMIP6気候モデルについて、観測された植生干ばつの長期傾向を十分に再現できていないことも報告されています。その要因として、植物の水輸送応答や陸域―大気相互作用などの表現が不十分である可能性が挙げられており、将来予測の精度向上に向けたモデル改良の必要性が指摘されています。
以上の結果は、熱帯林の健全性維持が気候変動緩和において重要であることを改めて示唆するものです。特に未攪乱の森林は干ばつ耐性が比較的高いとされており、その保全の重要性は今後さらに高まると考えられます。
(参考文献)
Shuai Cheng et al, Observed Increase in Tropical Vegetation Droughts Over the Past Three Decades, Geophysical Research Letters (2026). DOI: 10.1029/2025gl121172
(文責:戦略統括室 飯山みゆき)