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1477. Nature Positiveとは何か

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1477. Nature Positiveとは何か

 

自然の劣化は気候変動の加速だけでなく、感染症リスクの増加や水循環の不安定化など、人間社会の安定性そのものを損ないます。自然は人間社会の外側にある資源ではなく、経済や健康、気候を含むあらゆる基盤そのものであるという認識が求められています。

Frontiers in Science誌で公表された論文は、生物多様性の喪失を単なる環境問題ではなく、地球システム全体の安定性に関わる危機として捉え直しています。その中心にあるのが「Nature Positive」という概念であり、2030年までに自然の損失を止めるだけでなく、回復へと反転させることが目標として示されています。

まず本論文は、地球の生物圏と気候・水循環などの物理過程を安定させるためには、従来のように分野ごとに分断された環境政策では不十分であり、「Nature Positive」という統合的な枠組みによって、気候・生物多様性・海洋・人間開発といった国際目標を一体的に扱う必要があると述べています。

その上で2030年までの目標達成に向けた最優先事項として、まず人間の影響がまだ比較的少ない「残された原生的な生態系・バイオーム・自然プロセス・種の集合」をこれ以上失わないことが強調されています。これらは一度失われると短期間では回復できない不可逆的な価値を持つためです。一方で、種の絶滅リスクの低減や劣化した自然の回復も並行して急務であるとされています。

こうした取り組みを体系的に進める枠組みとして論文が提示するのが「Three Global Conditions(3Cs)」です。これは世界を人間の影響度に応じて3つの状態(大きく改変された地域、半自然的な共有ランドスケープ、比較的手つかずの自然地域)に分類し、それぞれの条件に応じて保全・利用・回復の戦略を最適化することで、自然の構造(種の分布や生態系)と機能(生物・非生物過程)の両方を同時に維持・回復する考え方です。

また本論文では、自然保全を成功させるためには科学的知識だけでなく、先住民や地域社会の知識体系を統合することが不可欠であるとされています。これらの知識は、生態系を「人間と切り離された資源」としてではなく、「相互責任を持つ関係性の中にある存在」として捉える点で、自然共生の目標と本質的に整合するとされます。

さらに、Nature Positiveへの転換は環境政策の枠内にとどまらず、経済システムそのものの変革を必要とします。すなわち、自然を外部資源として消費する経済構造から脱却し、地球システムの限界の中で自然資本を維持・回復しながら、人間の発展と公平性を両立させる経済への移行が不可欠であると結論づけています。

(参考文献) Nature Positive: halting and reversing biodiversity loss toward restoring Earth system stability, Frontiers in Science (2026). https://www.frontiersin.org/journals/science/articles/10.3389/fsci.2026…


(文責:戦略統括室 飯山みゆき)
 

 

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