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1407. 危機に瀕した世界におけるレジリエンス(回復力)とリジェネレーション(再生)

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1407. 危機に瀕した世界におけるレジリエンス(回復力)とリジェネレーション(再生)

 

レジリエンス思考は数十年にわたり持続可能性科学の中心的な信条となってきました。一方、近年、リジェネレーション(Regeneration:再生)という言葉は持続可能性における一種のバズワードとなり、再生農業から再生ビジネスモデルまで、あらゆる分野で言及されています。
Ambio誌に発表された論文によると、持続可能性科学において、レジリエンスとリジェネレーションは補完的な概念であり、繁栄する社会と生態系の新たなビジョンの基盤を形成し、持続可能性に向けた変革を導く可能性があると結論付けています。

レジリエンス(回復力)は、ラテン語の「resilire」に由来し、広義には「立ち直る」という意味があります。現代におけるレジリエンスの最も顕著な用法は、社会生態学的複雑性という文脈において、変化を生き抜き、繁栄する能力に関するものです。システムが長期的に機能し続ける能力、すなわちレジリエンスは、外因的な要因と撹乱、そしてシステムの内因的な条件の相互作用によって生じます。特に注目を集めた現象の一つは、異なるタイプの生態系が、一見安定している状態から別の(しばしば望ましくない)状態へと、迅速かつ予期せず「反転」する可能性があるという点です。このようなレジームシフトは、重要な要因の閾値を超えたとき、またはシステム内の内因的な条件がそのレジリエンスを損なったときに発生します。レジームシフトは、サンゴ礁、サバンナ、淡水湖など、多様なタイプの生態系で観察されています。

2000年代までに、レジリエンスは生態系だけでなく、複雑な社会生態系にも適用されるようになりました。「レジリエンス思考」は、この時期に生まれた包括的な視点であり、社会生態学的関係性やフィードバック、レジリエンス、代替的な安定状態、適応と変革の可能性など、複雑性を考慮した社会生態系システムへのアプローチ方法を表すものでした。最も有名なのは、エリノア・オストロム博士による共有資源システムのガバナンスに関する枠組みとの関連性です。単一の中心的アクターではなく、システムの異なるレベルに位置する複数の、部分的に相互に関連したアクターによって意思決定が行われるシステムは、レジリエンスを促進すると広く信じられています。レジリエンス思考のもう一つの重要な貢献は、様々な変化要因(土地利用変化、気候変動など)の閾値を超えた場合、レジームシフトによって地球上の人類の安全な活動空間が脅かされる可能性があるという、プラネタリーバウンダリーを概念的に支えていることです。プラネタリーバウンダリーの枠組みを通して、レジリエンスは今や持続可能性科学における主流の概念となっています。

リジェネレーションもまたラテン語の「regenerare」という動詞に由来し、これは広義では「再び創造する」という意味を持ちます。持続可能性の文脈における最も顕著な再生論は、都市開発と設計の文脈から生まれ、システムを維持(「持続」)するのではなく、人、建築環境、自然環境の間に良好な関係を育み、それによって人と自然の双方の繁栄を促進するデザインを目指しました。リジェネレーションは現在、農業 、経営学、社会学、教育に関する文献に見られますが、その中心的な原則は以下のように定義できます。

まず、再生に関する研究のほとんどは明確に場所に焦点を当てており、場所を基盤とした世界において、退化を(単に最小化、緩和、または補償するのではなく)逆転させることにあり、システムダイナミクスにおけるそのような肯定的な変化を実際にもたらすための人間の主体性の必要性と力に重点が置かれています。第二に、再生は社会生態学的全体を対象とし、根底にある生命維持システムや資源を枯渇させるのではなく、その固有の活力、生存能力、そして社会生態学的共進化の能力を新たに生み出すことを目指します。第三に、再生の概念化はますます包括的になり、システム内で機能するプロセスとダイナミクス、システム内に存在する退化的または再生的なモメンタム、そして退化的または再生的モメンタムのいずれかに寄与する実践などが明確に定義されています。第四に、再生は複数の領域とスケールを結びつける統合的な枠組みとなることを明示的に示唆しています。

まとめると、伝統的に、レジリエンス思考はシステムが困難な時期を乗り越えられるよう支援する仕組みに焦点を当ててきたのに対し、リジェネレーション思考は、継続的な再生が可能な本質的に健全なシステムの構築に重点を置いています。レジリエンスと再生は、互いに補完し合うメタ概念です。レジリエンスと比較すると、再生は持続可能性科学の主流に新しく登場した概念であり、それが何を可能にし、何ができないのかはまだ明らかではありません。著者らは、両分野の知見に基づき、レジリエンスと再生力のある未来に向けた積極的なガバナンスの指針となる7つの原則を提案しています。

 

  • 地球の限界(プラネタリーバウンダリー)を尊重する
  • 現状維持だけでなく、改善を目指す
  • 望ましい安定状態を維持または回復するダイナミクスを認識し、強化する
  • 進行中の変化とスケールを超えた相互作用に取り組む
  • 再生的なダイナミクスを最大化し、退化的なダイナミクスを最小化する
  • 人間と人間以外の存在(人間と自然)との相互的な相互作用を促進する
  • 分野を超えた肯定的な相互作用を特定し、強化する

 


(参考文献)
Fischer, J., Farny, S., Pacheco-Romero, M. et al. Resilience and regeneration for a world in crisis. Ambio 55, 24–34 (2026). https://doi.org/10.1007/s13280-025-02287-6


(文責:情報プログラム 飯山みゆき)

 

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