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1240. オーバーシュートに関する議論

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1240. オーバーシュートに関する議論

 

多くの国や企業の気候目標は、パリ協定目標に沿って、地球温暖化を1.5℃に抑えることを目指しています。しかし、地球温暖化は依然として進行し、世界の排出量はまだ減少していないため、1.5℃を超えることはほぼ避けられないと考えられています。『オーバーシュート』、すなわち、一定期間にわたり1.5℃という温暖化限界を超えるものの、一定期間内にその限界以下に戻る地球温暖化の軌跡、の影響について検討しておく必要があります。

気候変動に関する政府間パネル(IPCC)評価に携わる科学者と設計専門家からなる国際チームにより執筆されたレビュー論文は、オーバーシュートに焦点を当て、緊急に取り組むべき主要な課題について明らかにしました。

「オーバーシュート」は、科学界、政策、そして一般用語において様々な意味で使われ、しばし混乱を招きます。一般的な英語ではオーバーシュートは単に限界内に留まることができなかったことを意味しますが、IPCCの定義では、限界内に留まることができなかったことと、その後の是正措置の両方が示唆されています。是正措置(逆転して限界以下に低下させること)は、限界内に留まることができなかったことを相殺するものではありません。なぜなら、1.5℃のオーバーシュートは、地球温暖化が限界値を下回っていた場合よりも、より大きな気候変動の影響を意味するからです。しかし、オーバーシュートは、地球温暖化が1.5℃を超え、その水準を恒久的に超えたままになる場合よりも、気候変動への影響が少なく、影響も小さいことを意味します。

ただし、たとえ一時的にでも1.5℃を超える世界は、1.5℃超えを回避した場合よりも、より深刻な被害が想定されます。ここで懸念されるリスクとは、生態系と文化遺産への不可逆的な損失、異常気象の増加、世界的な不平等を悪化させる可能性のある地域的な脆弱性の変化、地球規模の複雑な影響、そして氷床崩壊やアマゾンの森林枯死といった不可逆的なティッピングポイントを引き起こすリスクが含まれます。

地球温暖化がオーバーシュートした後に逆転させるには、様々な緩和戦略を追求する必要があります。具体的かつ補完的な戦略として、二酸化炭素除去(CDR)の更なる拡大、残留CO2排出量の更なる削減、そしてメタンを中心とする短寿命気候強制力の更なる削減が挙げられます。ピークを低く抑えることができれば、1.5℃への回帰に向けた環境的、技術的、経済的障壁は軽減されるため、短期的な排出量削減策の加速が重要な前提条件と考えられています。

気温上昇のピークの抑制のために排出削減を加速することは不可欠である一方で、その過程で生じる損害を最小限に抑えるためには、効果的かつ公平な適応対策が依然として重要です。オーバーシュートに備えるには、適応、緩和、レジリエンスに関する同時かつ統合的な意思決定が必要であり、行動に対する様々な選好、能力、責任を考慮する必要があるのです。

 

(参考文献)
Andy Reisinger et al, Overshoot: A Conceptual Review of Exceeding and Returning to Global Warming of 1.5°C, Annual Review of Environment and Resources (2025) https://www.annualreviews.org/content/journals/10.1146/annurev-environ-…


(文責:情報プログラム 飯山みゆき)
 

 

 

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