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1120. 気候のオーバーシュートに対する過信

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1120. 気候のオーバーシュートに対する過信

 

最近公表された研究は、2023年の世界平均気温を押し上げたのはエルニーニョが主要な要因であるとしています。また別の研究は、近年観察される気温急上昇の背景に人為的な温暖化の影響は認めつつも統計的に優位ではないとしています。

一方、世界の温室効果排出削減努力は、パリ協定の気温目標を達成するには依然として不十分です。このため、気温をより安全なレベルに戻す前に、目標とされる地球温暖化の限界を一時的に超える、いわゆるオーバーシュート経路を想定し、その経路を体系的に調査することが、科学と政策の優先事項となっています。

Nature誌で10月9日に公表された論文は、オーバーシュートを回避する世界に比べ、オーバーシュート後の地球規模および地域的な気候変動および関連リスクが異なるとし、オーバーシュート経路への過信を警告しました。

地球の気温低下を達成できるならば、温暖化を単に安定化するのに比べ、海面上昇や雪氷圏の変化など、長期的な気候リスクを抑制することが可能です。しかし、何十年も先に地球温暖化を反転できたとしても、今日の適応計画にあまり役に立たないかもしれません。強力な地球システムのフィードバックが気温上昇の反転を阻む結果、短期的および継続的に温暖化が進行する可能性があります。

高リスクを回避するためには、数百ギガトン相当の二酸化炭素除去が必要となります。しかし、技術的・経済的・持続可能性の視点から、大規模な炭素除去展開の実現には限りがあります。したがって、現在予想されている時間スケールの期限において、オーバーシュート後の気温低下が達成できる保証はありません。気候リスクの削減には、短期的・急速に排出削減を行うほかに効果的な選択肢はないのです。

 

(参考文献)

Shiv Priyam Raghuraman et al, The 2023 global warming spike was driven by the El Niño–Southern Oscillation, Atmospheric Chemistry and Physics (2024). https://acp.copernicus.org/articles/24/11275/2024/

Beaulieu, C., Gallagher, C., Killick, R. et al. A recent surge in global warming is not detectable yet. Commun Earth Environ 5, 576 (2024). https://doi.org/10.1038/s43247-024-01711-1

Carl-Friedrich Schleussner, Overconfidence in climate overshoot, Nature (2024). https://www.nature.com/articles/s41586-024-08020-9

(文責:情報プログラム 飯山みゆき)

 

 

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