Pick Up

1233. 気候モデリングの未来

関連プログラム
情報

 

1233. 気候モデリングの未来

 

天気予報とは対照的に、気候予測はリアルタイムで検証できないため、物理学的なモデルの構築に依存してきました。npj Climate and Atmospheric Scienceで公表された論文「気候モデリングの未来The futures of climate modeling」は、気候モデリングの現状と、将来の展開について考察しています。

気候科学の展開によって、地球温暖化に伴い気候変動のシグナルとして気候モデルが予測してきたこと― 陸地が海洋よりも温暖化していることや、北極が最も温暖化していることなど -が実際に観測されるようになっています。気候モデルの成功は、大規模な空間スケールと小規模な空間スケールが十分に分離されているという仮定の下で物理法則を適用し、標準的アプローチと呼ぶ、気候科学の支配的なパラダイムが確立されたことにあるそうです。

気候モデリングは、伝統的に理論的理解と物理プロセスの表現の進歩を通じて予測を改善してきました。20 世紀半ば、最初の大気大循環モデルが誕生して以来、2 つの流れに沿って急速に進歩し、地球温暖化に関する理論的理解を可能にしてきました。1 つは短期スケールでの地球気象予測に特化しており、もう 1 つは長期的な気候のシミュレーションと予測に特化しています。後者は、1960年代に人為的な温室効果ガスの排出が気候を温暖化させることを実証する上で重要な役割を果たし、2021年に真鍋淑郎博士によるノーベル賞受賞につながりました。真鍋博士らは、物理を単純化し、複雑さを段階的に増やして、CO2増加に対する新たな対応の根底にあるメカニズムを理解しました。彼らの予測はすべてその後観察されており、すべてを網羅した複雑なシミュレーションに向けて複雑さを段階的に追加することで、モデルの動作に対する理解と信頼性が向上した明確な例を示しています。


しかし温暖化が進むにつれ、現実世界における気候変動のシグナルと標準的アプローチに基づく予測との間の食い違いが、特に地域規模で積み重なってきています。同時に、破壊的な計算アプローチが新しいパラダイムを推進するようになっています。とくに近年、気候モデリングはユニークな時代に入りました。衛星ベースの観測記録と現場測定および再解析結果を組み合わせることが可能になっています。気候変動のシグナルの増大と観測記録の長期化により、以前の気候予測がうまく機能していた領域が浮き彫りになりましたが、理解と予測の両方において解決する必要がある矛盾も明らかになっているそうです。

気候が急速に変化し、社会が正確な気候情報を求める緊急性が高まっている一方で、気候科学の分野も同様に変化しており、科学者の間で気候モデリングの将来についてさまざまな提案がなされているそうです。場合によっては 1 つの提案に多額の投資が必要となり、当然ながら他の提案のリソースが圧迫されるのではないかという懸念が生じつつ、提案されたアプローチのいずれも、気候科学コミュニティが直面している科学的課題に対処するのに十分であることがまだ証明されていません。科学者らは、バグが発見されたり、期待どおりに動作しないことは、失敗の兆候ではなく、問題を見つけてエラーを解明することを成功と進歩の兆候と考えているそうです。


(参考文献)

Shaw, T.A., Stevens, B. The other climate crisis. Nature 639, 877–887 (2025). https://doi.org/10.1038/s41586-025-08680-1
S. Bordoni et al, The futures of climate modeling, npj Climate and Atmospheric Science (2025). DOI: 10.1038/s41612-025-00955-8 https://www.nature.com/articles/s41612-025-00955-8


(文責:情報プログラム 飯山みゆき)
 

 

関連するページ